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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-172

 ばきっ…

 と、何かを砕くような音が響いたかと思うと、風祭の身体がぐらりと揺れて、そのままグラウンドに横たわった。
「つ、務さん……」
 風祭を止めようと、ベンチを飛び出していたバッカスの面々が、その風祭に鉄拳を見舞った務の姿に絶句している。
 温厚で、世話好きで、いつも下ネタを言ったり聞いたりして無邪気に喜んでいる務が、親友の風祭に向かって拳を振るうなんて…。
「あ……」
 その務が、泣いていた。彼の涙は、当然だが初めて見る。
「白球丸さん、すまないな」
 涙を無造作に拭った後、務は管弦楽に頭を下げた。
「助っ人ありがとう。おかげで、試合をすることができたよ」
 次いで務は、固まっているフラッペーズの面々に向かって頭を下げた。
「すんません皆さん。うちらの勝手な都合で、面白くもない試合につき合わせてしまって……」
 そして、いつのまにか手にしていた茶封筒を取り出して、ベンチからグラウンドに駆け出したまま固まっていた松村に手渡した。
「俺らは負けました。約束どおり、お金を受け取ってください」
「お、おう……」
 状況が良くつかめないが、松村としてはもらえるものさえ間違いなくもらえれば、とりあえず文句はない。
「みんなも、すまなかった。バッカスはこれで解散……する、よ。もう無理に、つきあってくれなくて、いい……から……」
 再び何かを堪えるように、静かに泣き出した務。そのために、言葉の端をメンバーは聞き取れず、かといってそれ以上の詮索が出来るはずもなかった。
「務さん……」
 バッカスのメンバーも、フラッペーズの面々も、そんな務に対してどうすることもできないままその場で固まっている。
(………)
 修羅場に慣れているはずの京子でさえ、何をするでもなく立ち尽くしているではないか。
「あ、管弦楽……?」
 気がつけば、白球丸に扮していた管弦楽だけが、いつのまにかグラウンドから姿を消していた。



「ちょっと」
 醍醐京子が、珍しく話しかけてきた。というより、管弦楽にとっては初めてのことだ。
 ゼミが終わったばかりの管弦楽は、今日が発表の日でもあったので、配布しきれず余ったレジュメをどうしようか考えているところだった。気合を入れすぎて、コピーの枚数を多く間違えてしまったらしい。いかにも、彼らしい。
「なにか、用かね?」
 そのレジュメの束を纏めながら、管弦楽は京子の方を見ずに応えた。
「昨日は、なんで黙って帰ったのよ」
 あれから…。
 賭け試合がなんともいえない後味の悪さを残して終了した後、京子も含めたフラッペーズの面々はそのまま現地で解散した。
 去り際に松村から、ほとんど一人で勝利を呼び込んでくれたということで、最初の提示にイロをつけた謝礼を渡されたのだが、賭け試合でせしめた封筒から引き抜かれたその万札をなぜか京子は受け取らず、唖然とする松村をその場に残して、ある人間を探しに出た。
 言うまでもないだろう。管弦楽を、である。
 聞きたいことが山ほどあった。しかし、その日は遂に彼のことを見つけることが出来ず、虚しく自分のアパートに帰るにとどまったのだが…。
 それで、翌日である今日、管弦楽が所属しているゼミに顔を出したのだ。
「あんた、結局、自分の正体ばらさなかったけど……よかったの?」
 風祭がその後どうなったか、京子は知らない。
 彼女に代わって説明するならば、その後、風祭は務によって介抱され、意識を戻したときに、欲に霞んだ目も覚めたようで、これまでの自分の不行状をメンバーに詫びると、バッカスの解散を改めて宣言していた。特に、自分のふがいなさから拳まで振るわせてしまった親友の務に対しては、申し訳なさと情けなさでどうしようもなくなったらしく、風祭は務がいいというのに、泣きながらその謝罪をやめようとはしなかった。


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