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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-170

「あっ」
 しかし、その平凡なサードゴロを、味方がエラーしてしまった。
「ぎゃははははは! いいぞ、いいぞ! もっと、エラーしろ! エラーしろや!!」
 不意に、狂ったような笑い声がバッカスのベンチから湧き起こる。風祭だ。
 この試合に敗れれば、チームと、会費と、なけなしのプライドさえも失う彼は、ほとんど正気ではないのかもしれない。いくら敵チームとはいえ、ここまで露骨にその失策を辱めるとは。
(なによ、あいつ……)
 チームワークとは無縁な京子だが、さすがに不快なものを胸に感じて、むかむかした。
 2番打者は、二球目をあっさりと打ち上げて、一死に取った。
「バッキャロー! ころがしゃ勝てるってのに、なにやってんだこのボケッ!!」
 風祭の侮蔑は、味方にも容赦なしに飛んでいる。

 むか……

 不穏な空気が、グラウンドを覆った。その出所は、風祭単体から発せられたものだ。その醜い悪意がたちまち伝播して、敵方のフラッペーズはもちろん、味方であるはずのバッカスの面々も、敵意を全て風祭に注ぎこむ。
「………」
 務は、それがつらい。風祭の言動は確かに弁護のしようがないので、何もえないが、そのことがまたつらいものとなった。
(なんなのよ、これ……)
 京子は今までの賭け試合の中で、最も不快さの伴うマウンドに立っていると自分でも思った。
 その意識がさすがに手元を狂わせたらしく、しっかりと握ったはずのフォークがすっぽ抜けた。
「あっ!」
 と、思った頃には遅く、務のヘルメットに直撃したそれは大きく跳ねてマウンドにまで戻ってきた。
「だ、大丈夫!?」
 さすがに京子が慌てて打者に無事を問う。いくら軟式とはいえ、当てた場所を考えればそれを心配するのは当然である。
「ぎゃはははははは!! いいぞ、務!! ナイスデッドボールだ!! もうけた、もうけた。うははははは!!!」
「!?」
 京子は信じられないものを見るように、ウェイティングサークルにいる風祭を睨みつける。それはフラッペーズのナインも同様であり、あの松村でさえ風祭の言動に義憤を感じたものか、敵に与えたデッドボールだというのに、ベンチの中から今にも飛び出そうとする雰囲気であった。
「だ、大丈夫ッスよ。軟式だから、全然、痛くない」
 その間に入るように、務が笑顔で京子に声をかける。
「ご、ごめん……」
「心配ないから、気にしないで。避けられなかった俺が、悪いんだし」
 務はもう一度、京子に笑顔を見せると、何事もなかったように一塁まで駆けていった。
「………なあ、折角だから俺にも当ててくんねえかなあ? 尻でも背中でも頭でも……なんだったら顔でもいいや。だから、なあ?」
 打席に入りながら風祭が京子に言う。背筋に、寒気を感じながら京子はその顔を睨みつけると何も言わずにマウンドへ戻った。
(この、ゲス野郎!)
 仲間の死球も心配しない風祭に対して、これまでにない敵意を剥き出しにした京子。皮肉な話で、一番勢いと威力のあるストレートが立て続けに決まり、必殺のフォークボールを使うこともなく風祭を三球三振に撫で切った。


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