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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-165

 2回の表、フラッペーズの攻撃はあっさりと終了した。わずかに期待できるという4番も、松村がいうようにライトゴロに倒れ、以後の打者についてはへっぴり腰もいいところで、バットに当たるだけでも京子は瞠目してそれを追いかけるほどだった。
 2回の裏、4番の風祭は初球に手を出し、キャッチャーフライに倒れた。しきりにバットを気にしているのは、手応えを感じていたはずなのに、内野にも飛ばなかったことに対する不審の現れである。このとき、既に京子の術中にはまっていたことに、彼は気づいていない。
「ははーはははは!!」
 それはともかくとして、遂にこの男が出てきた。白球丸こと、管弦楽幸次郎である。
「さあ、きたまえ! 醍醐京子!!」
(………)
 名前を呼ぶんじゃないよ、と言いたい所だが、今は勝負の最中だ。余計なやり取りは無用の長物である。
 管弦楽は構えを取った。非常にオーソドックスだが、引き絞られたバネ仕掛けを思わせる、いい構えだと京子は思う。
(ダテに四番はってるわけじゃないってね……)
 外見は変態にしか見えないが、その構えは本物だ。油断をすれば、一杯食わされるだろう。
 一方、管弦楽もまた、久しぶりに味わう緊張感の中にあった。
(醍醐京子の全てを知っているわけではないからな……)
 消えるような落差のあるフォークだけでないということは、彼女と対戦したという関係者から聞き及んでいた。
 管弦楽は、自分では“天才”とのたまっているが、意外にもデータを重んじるところがある。それを証明するかのように、醍醐京子との対戦が決まったすぐ後で、彼女に関する情報を少しでも多く仕入れようと、知っている草野球チームから順に話を聞いていった。
 切れ味鋭いフォークの存在は、誰もが口にした。確かにこの球はインパクトが強い。だがひとりだけ、他に気になることを言う者がいた。
(なんか、飛ばねーんだよな)
 彼女のストレートに対する感想である。飛ばないということは“球質が重い”ということである。
 速さや伸び、キレと言うものは一様にして“普通よりも上等”というのが統一見解であった。見た目だけをいうならば、その感想と見極めは容易いことだろう。
 しかしその球質までとなると、一瞬のことだからよほどの熟練者でなければ見抜くことは難しい。正式な野球部員ならば何度も試合の中で対戦することがあり、その見極めもしやすいであろうが、そこは草野球の世界。たった一度の対戦で、しかもあまり細かいところまでは覚えていられないというのが、みなの真実であり現実である。
(醍醐京子の球は、重い)
 そんな中で、その情報を入れられたのは幸運だった。球質というものは打って見なければわからないものであり、打席を重ねるにつれてようやく慣れてくるものだ。それ故に、全打席安打を勝利の条件と定められている今回の勝負においては、1打席目でさえ既に安打を命題とされているのだから“確かめる”という余裕がないのである。
 真っ白な状態でストレートを叩いていたら、球質の重さに負けて凡打に終わる可能性が高かっただろう。その時点で、勝負は決まってしまう。
 だからこそ、“京子の球質は重い”ということを既に知っている管弦楽は、フォークと併せて注意しなければならない点を、最初の打席から意識して臨むことが出来た。
 京子が振りかぶった。管弦楽はバットを握る手を引き絞り、初球に備える。
 流れるようなモーションから白球が弾きだされた。それは外角低めに程よくコントロールされた、直球である。
「!」
 管弦楽は振りにかかった。いつもに比べて、バックスイングはやや抑えた形で。いわゆる、“当てにいく”スイングだ。
 ゴキッ、と鈍い音が響き、一塁線のファウルラインを遥かに反れて球は転がった。それとわかっているから、ボックスを出ようともせず、管弦楽はグリップを握る両手を見つめて、そこに残る手応えを反芻してみる。
(重い)
 率直な、感想である。
 ストレートそのものは、確かに速いが、近藤晶の投げる2段階目(レベル1.5)のストレートに及ばない。しかし、球質はこちらの方が遥かに重い。


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