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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-166

 なるほど、球の速さや伸びが“普通より上等”というに留まっている理由が良くわかった。
 球質の重さと、球の伸びというものは相反する関係にある。それはボールの回転に由来するところである。
 管弦楽は晶のストレートを思い出してみる。まるで糸をひいたように真っ直ぐな球筋を描いて、ミットを射抜くそれは、手元でさらに球威が増してくる。
 晶は腕の振りが鞭のように鋭い投手だ。柔らかく伸びやかな投球フォームが生み出す強烈な円運動が、そのまま腕のしなりによって増幅され、指のかかりまで生き続けることで、そこからはじき出されるボールに強烈なバックスピンがかかる。その回転は“キレ”という言葉で表現されるが、そのキレがよければよいほど球の伸びは強まるのだ。キレの良し悪しは、指先の感性と言うことになるが、おそらく近藤晶はそれが天才的に卓抜しているのだろう。だからこそ、細腕でありながらあれだけ威力のあるストレートを放ることが出来るのだ。
「ボール!」
 京子の二球目がミットを射抜いた。その球筋を見るに、晶のストレートよりも手元で伸びてはこない。
 だがそれが、醍醐京子の真骨頂であると言えるのだ。
 伸びがないということは、ボールにはあまり回転が乗っていないことになる。だとしたらそれは“棒球”ではないか、という指摘を受けそうだが一概にそうでもない。そもそも、近藤晶の投げるレベル1・5の速球に及ばないまでも、それに匹敵するほどのスピードはあるわけで、それはやはり彼女の鋭い腕の振りによって生み出されているものだ。
 この時点で、腕の振りに関しては、近藤晶と醍醐京子は似たタイプの投手であると言える。だが、決定的な違いは腕の先…その“手”にあった。
 先に、近藤晶のキレを生み出すための指先の感性は天才的なものであると言った。一方で、醍醐京子にもその手にはある才能が宿っているのだ。
 “握力”である。
 醍醐京子は中学校時代にソフトボールで投手をしていた。ご存知のようにソフトボールで使用されるボールは軟式のものより大きい。従って、それをしっかりと掴んで投球ないしは送球をしているうちに、彼女は強靭な握力をいつのまにか手に入れていた。
 さらに、高校のときに軟式野球部に所属した彼女は、その長い指先に着目したチームの監督から“フォークボール”を教わった。その変化球はボールを指で挟むために、これまた強い握力を必要とされる。握力強化を中心とした練習を重ねることで、落差の激しいフォークボールを習得したと同時に、醍醐京子はその握力によって重い球質をも手に入れたのである。
 近藤晶を天才型の快速投手と捉えるならば、醍醐京子は努力型の剛球投手と言えるだろう。もっとも本人たちはそんなことを意識してもいないだろうが。
 話が反れてしまったようだ。試合に戻るとしよう。
 醍醐京子が大きく振りかぶる。その強靭な握力によって握られた軟式ボールが、鋭い腕の振りによって強く弾きだされた。
 内角低めに重い直球が襲いかかる。管弦楽は、当てにいった初球のそれとは違い、バックスイングを大きく取って、その球を強く叩いた。
 重い球質に対抗するには、やはり強力なスイングが必要だ。そしてそれは、ただ闇雲に強く振るのではなく、身体の回転軸を真っ直ぐに保ったまま勢いを余さずバットに乗せなければならない。さらに、その芯にも当たるようにしなければならず、それだけのことをひと振りの中に凝縮するのだから相当な打撃技術が必要となる。
「おっ!」
 ギンッ、という初球のファウルよりはある程度、耳に響きの良い音を残し、強い打球が三遊間に飛んだ。
 二度ほどバウンドした後に、それはレフトに到達する。
 ヒットである。
(一筋縄では、いかんな)
 一塁に悠々と到達した管弦楽は、それでも手に残るかすかな痺れに、醍醐京子の直球の威力を思い知った。
 考えてみれば、普通のストレートでこの威力なのだから、これにさらにフォークが配球の中に加わってくることを思うと、彼にしては珍しく、鬱なものを感じてしまうのである。





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