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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-164

 ぎん!

 真ん中に放られたボールを1番打者が叩いた。しかしそれは鈍い音を残すのみで、京子の前に、力なく転がる。
 それを簡単に拾い上げるとファーストに送球し、まずはひとつめのアウトを稼いだ。
「………」
 1番打者はしきりに手を振っている。どうやら、痺れてしまったらしい。芯でも外したのだろうか。
 続く2番打者は、甘く入ってきた初球を強く叩いた。しかしそれは、やはり鈍い音を響かせて京子の頭の上に上がるだけだった。
「アウト!」
 たった三球で二つのアウトを稼いだのである。
(ふぅん?)
 3番は務である。京子は彼が打席に入ったとき、これまでの打者とは違う雰囲気を感じ取っていた。その辺りは勝負の世界に身を置いてきた人間の、嗅覚の鋭さである。
(こいつは少し、やる気があるみたいだね)
 京子は初球を投じた。内角低めいっぱいのストレート。

 パンッ!

 と、ミットが乾いた音を鳴らす。
「ストライク!」
 務はそれを慎重に見送った。早打ちでは相手の球筋を究めることができないと、踏んでのことだろう。
(考えてるじゃない)
 ボールを受け取った後、二球目を投じる京子。それは、今度は外角の厳しいところに構えていた捕手のミットに吸い込まれた。
「ストライク! ツー!!」
 追い込んだが油断はしない。三球目はストライクゾーンを外したアウトコースへ放り込んだが、しかしそれは簡単に見送られる。選球眼も、それなりに備わっているらしい。
(それなら……)
 京子はグラブの中にある白球の握りを確かめた後、振りかぶって5球目を投じた。
「!」
 それは真ん中のコースだ。追い込まれているから、もちろん務は振りにかかる。
 しかし、
「あっ」
 ごつ、と鈍い音がしたかと思うと、ボールは地面を叩きつけ、その勢いを殺さずに捕手の顎を打ち抜いていた。そのままボールが、てんてんと捕手の横を跳ねる。
「振り逃げよっ!」
 務は空振りをしたと判断するや、すぐに一塁に駆け出していた。しかし、捕手は落ち着いてそのボールを捕まえると、すぐさまファーストへと送球し、アウトに仕留めた。その状況判断のよさは、なるほどこのチームの中でも“できる方”だと言うのがわかる。
「………」
 一方、打ち取られた務は疑問符を顔中に貼り付けていた。なぜなら、真ん中のコースにあったはずのストレートが、急にブレーキのかかったように落ちたからだ。そのため、球筋にスイングが追いつかず、空振りをしてしまった。
(フォーク……)
 凄まじく落差が大きい。まるで消えるように視界からボールが失せたのだから。
 “フォークボール”とは、指でボールをはさみ、それをストレートと同じ具合に投げながら抜くようにしてリリース(指から離すこと)し、回転を殺したそのボールがストレートと同じ勢いの空気抵抗を受けることで急激に失速し落ちるという、そんな変化球だ。指が長い京子にとっては、おあつらえ向きの変化球である。
「ミラージュ・フォーク……」
 これは、白球丸に扮する管弦楽の呟きだ。信じられないような落差で打者を幻惑する彼女のフォークボールにはそんな渾名がある。なぜに管弦楽がそれを知っているかということは、今は伏せておこう。
 とにかく初回の攻防は、ともに三者凡退で終了した。勝敗の帰趨がいずれにあるか、今の段階では計りかねる試合の滑り出しであった。



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