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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-122

「惜しかった」
 晶の第一声である。打者走者である渚がタイムを要求し、ベンチ裏に下がったので、間が空くことを心配した亮がマウンドに来てくれたときのものだ。
「24イニングで、止まっちゃった」
「連続被安打0か?」
「別に気にしてはいなかったけどね」
 どうやら、余裕はありそうだ。二死までテンポよくアウトを重ねただけに、当りの鈍い内野安打を打たれたことでリズムを乱さないか心配だったが、杞憂だったらしい。
「次は4番だが……」
 一応これまでの打席では出塁を許していない。2打席ともファウルでストライクカウントを稼いだ後、見逃し三振に切っている。
 今の晶ならば、間違えずに攻めれば、問題なく打ち取れるはずだ。
「あ、来たみたい」
 相手のベンチから、メットを被った渚が姿をあらわした。
「ここが正念場だ。晶、頼むぞ」
「ん、頼まれた」
 二死一塁で、迎えるのは2打数2三振の打者。
 二人の心に隙がなかったとは、言えなかった。



 マウンドに立つ晶は、バックスクリーンから目が離せない。それを尻目に、星海大学の4番・山内悟は、悠々と塁を一周していた。
 7回の裏、走者・渚を一塁に置いた状態で、内角低めに投じられた初球を、悟は豪快なスイングで高々と打ち上げた。あまりにも上がりすぎたように見えたので、城二大の野手陣も、星海大のベンチも、平凡なセンターフライだと思った。
 しかし、走者の渚は悟を信じ、全力で塁上を疾駆する。きっと、抜ける。そう信じて。
 脇目も振らず走る渚を、三塁コーチャーが苦笑して止めた。ゆっくり走っても、構わないと伝えるために。そして、腕をぐるぐると廻し、打球の行方が落ちた先を示す。
「え……」
 その方を向くと、相手のセンターがバックスクリーンの付近で項垂れていた。
「ホ、ホームラン?」
 三塁コーチが、うなずく。
 渚は、喜びに飛んだ。ベースを踏みそこなったのを三塁コーチに注意され、慌ててもう一度それを踏む。そして、満面の笑顔でホームベースを両足で踏みしめた。
 まずは1点。これで、同点。渚はベンチには戻らず、ウェイティングサークルの近くで殊勲者を待つ。
 悟が、ホームに帰ってきた。審判が、ホームインを宣告する。
 スコアボードに、“2”の数字。星海大学、逆転の瞬間であった。
「悟ッ!!」
 がばり、と渚がダイビングよろしく飛び込んだ。予想以上に勢いよく飛びつかれたので、悟はよろめく。
「うわ、とと……あぶない、あぶない」
 渚の細い腰をしっかりと抱きしめて、そっと地面におろした。彼女は、まだ残り2イニングを投げなければならない大事な身体だ。
「悟……悟……すごい、すごいよ……」
「渚?」
 胸に顔を押し当てたまま、顔をあげない我がエース。
「泣いてるの?」
 がば、と慌てたように顔をあげた。よく見れば、両目が赤い。
「砂が残ってたんだ!」
「あれま」
 そういうことにしておきましょうか。
「………」
 とにかくこのままでは遅延行為を取られそうなので、ベンチに戻る。
「くわ! こいつめ!! いつもいつもいつも、おいしいところでやってくれる!!!」
「櫻陽大のときと、同じじゃねえか!」
「そういうのは、もっと早くやれよ! うわはははは!」
 ばちばちばちばち………待ちかねたように、美作をはじめ、チームの面々から荒々しい祝福を受ける悟。正直、嬉しいが、痛い。
「?」
 その輪の中に、本来ならばいの一番に入ってくるの渚。しかし、その渚が遠巻きに、寂しそうにしていたのを、悟は見落とさなかった。





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