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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-121

「よっしゃ、やったぞ、ナギ!!」
「近藤晶の被安打ゼロを、止めたぞ!!」
 沸き立つ星海大のベンチ。渚はそれに応えようとしたが、目に相当砂が入っていたらしく涙が止まらない。たまらずタイムを要求し、一旦、ベンチに戻った。
「あたたた……くそ……」
 ベンチ裏にある水場の蛇口をひねり、顔を洗う。手に貯めた水の中で瞼の開閉をして砂を払ってみる。
「渚……大丈夫?」
 いつのまにか打席にいるはずの悟が、傍に来ていた。いわく、こちらもタイムを要求してから来たとのこと。
「へへっ、言う通り、ちゃんと廻してやったぜ」
 ざぶざぶと顔に水を叩きつけながら渚。タオルで拭って、目をぱちくりとしてみるが、左目にかすかな違和感が残っている。
 そのことを、独り言のように呟くと、悟が反応した。
「見せてごらん」
「あ、おい……」
 悟は渚の頬を優しく両手で支えると、そのまま上を向かせた。
「………」
 動揺を隠さない渚の表情を知ってか知らずか……無表情に左目の状態を見る悟。親指で左の瞼をそっと下のほうに伸ばし、可哀想にも充血している眼球部分の周辺をよく確かめた。
「ああ、この砂粒だね」
「あ、そ、そうか………え、え、え?」

 ぬる…

「っ!?」
 眼球に、やたら柔らかい感触。間近で見ていたからよくわかる。悟が舌で、舐めたのだ。
 えもいわれぬくすぐったさが、目を覆う。しかしそれ以上に、体験したことのない熱さが身体中をかけめぐっていた。
「さ、取れたよ。どう?」
「う、うん………」
 舌で目に入った異物を取るという行為は、渚も未体験ではない。小さい頃、浜の砂などが目に入ることは数多くあったし、そのような時は母親がよくこんなふうに処置してくれたものだ。
「………」
 なんでこんなに、頬が熱くなるのだろう? それは、母親がしてくれたときには、絶対に感じ得なかったものだ。
「渚?」
「え……あ、ああ、うん。もう、大丈夫……」
「よかった」
 悟の爽快な笑顔。
「!」
 いつも見慣れたはずのその笑顔に、胸が妙に締めつけられる。高鳴りがどんどん早い鉦鼓に変わっていく。自分の身体で起こる不可思議な現象に、ひたすら戸惑う渚。
 息が、苦しかった。
「さ、悟……」
「うん?」
「約束……守ってくれよ。オレ、一生懸命がんばって、悟に廻したんだからさ」
「ん。わかった」
 優しく頭に乗せられた悟の手にさえ、胸の動悸は早まっていく。
「悟……」
「おーい、どうだ? 渚、大丈夫なのか?」
 なおも渚が声をかけようとしたところで、美作が様子を見に来た。渚が慌てたように悟から離れると、美作に心配無用であることを伝える。そのままベンチに戻り、それぞれの居場所へと散った。
 渚は、自らもぎ取った一塁ベースへ。
 悟は、近藤晶と3度目の対決を迎える右打席の中へ。
「………」
 足場を充分に作り、グリップを握り締め、構えを取る。身体中のあらゆる神経を研ぎ澄ませ、怪物のような記録を残し続ける近藤晶と対峙する。
 渚が必死で、身体を張って作ってくれた好機だ。
「………」
 そのとき、彼の顔に、あの爽快な笑みは消えていた。





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