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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-120

(なるほど“日没”か……)
 面白いと思う。
(それにしても、渚はすごいな)
 6回の表、相手の4番に見送られた球から予兆は見えていた。そして、5番打者には小さい変化ながら見事に決まり、併殺に打ち取った。
 7回の表、先頭打者に四球を出したのは、指のかかりを覚えていなかったからだろう。事実、それ以降の打者には完璧なまでの変化で、三者三振に打ち取った。
(練習のときでも、何球かは上手に投げたけど……)
 ようやく、自分のものにしたらしい。これで、ますます投球の幅が広がるというものだ。
 さて、現実に戻ろう。悟はスコアボードに目をやる。
 7回の裏、自分たちの攻撃を迎えスコアは0−1。ヒットの欄には、これまた0の数字。
 1番から始まるこの回が、好機だ。
「渚」
 美作と新ボールの名前についてぎゃあぎゃあ言っている渚に問いかける。
「どーした、悟」
「約束どおり、取り返してあげる。この回、なんとしても僕まで廻してくれ」
「お、おう……」
 微笑は絶やしていないが、その顔には見たこともない気迫がみなぎっていた。
 ランナーがひとり出れば、4番の彼に打席は廻る。そして、3番に座る渚には確実に打席は用意されている。
「バッターアウト!」
 1番打者の笹本が三振に倒れた。相変わらず、近藤晶は絶好調だ。
「アウト!!」
 なんとか追いすがって、バットに当てた2番の小柳だったが、奮戦空しくファーストフライに倒れた。
 上位打線からの攻撃も、あっという間にツーアウト。
 そして、打席には3番の渚。彼女の頭の中には、悟の言葉が焼きついている。
(きっと、オレが……)
 頼れる4番にまで、繋いでみせる。そうすれば、きっとなんとかしてくれるはずだ。
 前の打席では、近藤晶のストレートに振り負けず、外野までボールを運んだ。センター低位置のフライだったが、芯を食うことはできた。
(きっとつなぐ……きっと……)
 決意の打席は、渚に今まで以上の気迫を生んだ。
 不思議なもので、その気迫が高まれば高まるほど、心が澄んで、落ち着いてゆく。
 晶が大きく振りかぶった。投げ込まれた直球が、インコースへ。
「ストライク!」
 審判の手が高々と挙がった。
 しかし渚には、それらの動きが、まるで遠い場所での出来事に思えていた。研ぎ澄まされた渚の集中力は、晶の指から亮のミットまでを繋ぐ、白いボールにのみ注がれていたのだ。
 二球目。連続写真のように見える晶の投球フォームから繰り出された直球が、外角に。
 ボールが…止まって見えた。
「!」
 思い切り踏み込んで、そのボールを叩く。
 打球が、三遊間の深いところへ転がった。芯で捕らえたはずなのに、球威に押されたらしい。
「っ」
 しかし、走った。ボールの行方や、野手の動きなど目に入らずに、ひたすらに脚を動かした。とにかく、前へ、前へと。彼女に見えるのは、白い一塁キャンバスのみ。
「わあぁぁぁぁぁ!!!」
 飛び込んだ。もぎ取るようにして、両手でベースを捕まえた。
 じゃりじゃりとした感触が口の中で踊る。目に砂が入ったらしく、痛くて涙が溢れてきた。
 何とかそれを見開いて、判定を見る。審判の両手は、真横に大きく開かれていた。
「あ、セーフ、か……」
 内野安打。本当は、ヘッドスライディングの必要もないほど余裕はあった。
 遊撃手の斉木が、深いところまでそれを追って捕まえたのはよかったが、体勢が悪く送球までには至らなかったのだ。もっとも、ボールに追いついた時点で渚はヘッドスライディングを始めていたから、投げたとしても確実にセーフだっただろう。
 スコアボートの安打数を示すHの欄に“1”の数字が。形や見てくれは悪いが、まぎれもなく渚はヒットを放ったのだ。


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