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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-119

「ボール!」
 外れていた。
 まだ例の沈む球を見ていない。おそらく、投げてくるとしたら次だろう。
 晶は構えた。握ったグリップが、少し汗で湿っている。
 渚が投じた三球目となる直球が、甘いところに来た。
「!」
 晶はバットを繰り出す。ストレートならば、このまま振り切ればおそらく長打を放つことが出来る。
「あ」
 しかし、途中でそれは失速した。晶のバットから逃げるように外角へ沈んでいく。
(こ、これが……)
 亮の言うシンカー。だが、途中までのそれは、明らかに今までの直球と同じ球筋だった。
 それなのに……。

 ぶん…

「ストライク!!」
 突然の変化に追いつけず、晶のバットが空を切っていた。これで2ストライク1ボール。
(………)
 まだ打ち取られたわけではない。しかし、なにか壁に穴を穿たれたような、えもいわれない喪失感が襲いかかる。
 その時点で、この打席の晶は負けていた。
 四球目、真ん中にきたストレートにバットを振るが、それはやはり同じように途中から沈んで、晶のバットをかわして捕手のミットへと。
「ストライク!!! バッターアウト!!!」
 無死で出した走者を、何も生かすことが出来ずに三者三振。
「おっしゃー! 完成したぜ! 名づけて“日没ボール”!!」
 マウンドで、渚が吼えた。
(日没……)
 なるほど、ボールが沈んでいく様はそれに似ている。そして、チームの中でも指折りの巧打者である晶が、成す術もなく三振に倒れるほどの威力。
「………」
 途端に静まり返る城二大のベンチ。先制したはずの1点が、妙な重しとなって彼らに不安を与えていた…。



「しかし、“日の出”に“日没”か……」
 美作が頭を垂れる。相変わらず、渚のネーミングセンスは別の意味で冴えている。
「せめて、“サンセットボール”とかさ、カタカナにしねえ?」
「そんなちゃらちゃらした名前よりも、ずばっと“日没”にした方が男らしいですって!!」
「だから、お前は女だっての……」
 ますます頭が沈んでいく。さきほど垣間見たしおらしさが、萎んで消えそうだった。
(アンダースローの投手にとって、もっとも投げやすく変化もつけやすいシンカーという球はなくてはならないものだ)
 これは、悟の思考である。
(だから渚にも練習してもらっていたんだが……)
 思わぬ特典がついたものだと思う。
 既述の通り、シンカーは緩い変化球である。しかし渚の投げるそれは、明らかにストレートと同じスピードを持っている。こんなこと、本来ならばありえない。
 では、なぜにそれが可能となったのか? それは、渚の腕の振りに原因を探ることが出来る。
 幼い頃より船に乗り荒波に揺られる中で、鉛のように重い安定した下半身を手に入れた渚は、同時に柔らかい筋肉の持ち主だった。その強靭な下半身を軸にして、柔らかい体がバネ仕掛けのように鋭い腕の振りを生み、結果、たとえ変化球の握りだったとしてもストレートと同じ勢いの球筋を可能にしたのだ。
 もちろん、握りが違うからボールにも違う回転がかかっている。
 そしてそれが、ストレートと同じ猛烈な空気抵抗を受けるものだから、急激に失速し沈んでゆく変化を起こしたのだ。


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