投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

紅館の花達
【ファンタジー 官能小説】

紅館の花達の最初へ 紅館の花達 28 紅館の花達 30 紅館の花達の最後へ

紅館〜白い騎士〜-1

太平の世が流れる世界のある国…
この国は大陸を制覇した大国ハンバートに従属している小国だ。
ここは国の王宮。私の名はハイネルシス、この国の騎士だ…

『ハイネルシス。』
昼下がり、木陰で休憩していた私は頭上からの声に反応し、顔を向ける。
二階の窓辺に一人のドレス姿の女性が立っている。
この国の王女、クリス様だ。
『はい、なんでしょうか? 姫様。』
風が吹き、姫の長く美しい金髪が揺れる。
『ハイネルシス、今は暇ですか?
よろしければ私(わたくし)とお茶をしません?』
姫は、このようによく私に声をかけてくださる。
だが、私はそれを受けたことが無い。私は仕えている主と同室は出来ない。それが私の身分、人で無い私は、人の扱いはされない。
私は人のような姿をしているが、本当の種族名は「白神鬼族」白い髪、白い目で、人を食らう魔の種族だ。
だが、白神鬼族はもう私しかいない。他の者は人に殺された。
しかし、私は人間を恨みはしない、殺された仲間は皆、人を殺したため殺されたのだから。
一族の変わり者である私は、争いを好かない性格に生まれた。それのおかげで私はこの平和を知ることが出来た、戦いの無い、退屈すらうまれる平穏を。
『ハイネルシス、ではお話しませんか? 私、貴方の事知りたいわ。』
『申し訳ありませんが、見廻りがありますので…』
『今日も…駄目ですか…』
姫は悲しそうにうつ向き、窓辺から離れて行った。
(仕方ないことだ…王との約束だ…)
白神鬼族最後の生き残りである私は一時期人間に迫害されていた。
仲間が人間にしたことを想えば仕方ない、と耐え続けた私を騎士としてこの平穏をくださったのが王だ。
王とは約束事がある。人間と必要以上に話さないこと。無断で王宮から出ないこと。
その二つ、それでも私は幸せだったのだ…
姫を守る、それが私の幸せだったから… 影ながらお慕い出来ればそれで良かった。
だが、それは脆くも崩れ去った。

ある日の朝、王は馬車に乗ってお出掛けなさった。
『ハイネルシス、留守の間。 私の家族を頼むぞ。
なんびとたりとも近付けるな。』
『仰せのままに…』
白神鬼族は剛力の魔族だ。昔から一騎当千の強さだから、騎士としては優秀なのだ。
『ハイネルシス。』
王を見送り、自分の部屋に戻った私を出迎えたのは、姫だった。
狭い部屋の真ん中に一人佇んでいた。
『姫…このような汚き場所に来られてはお召し物が汚れます。
お部屋にお戻り下さい。』私は慌てて跪き、顔を伏せる。
『…ハイネルシス、何故私の相手をしてくださらないのです?
…私の御相手は嫌ですか?』
『…私は人間と必要以上の会話を禁じられております…
ご容赦ください…』
感情を殺し、あらかじめ決められたセリフを言う。
酷く単調で心の籠らない。
『…わかりました…私は貴方に無理を言っているようですね…』
姫は静静と私の横を通りすぎていく。
姫の香りが私の鼻に薫る…
伸ばせば、手を伸ばせば抱き締められる。胸にしまった想いを打ち明けたい衝動にかられたが、押しとどまった。
『…ハイネルシス。』
『はい、なんでしょうか?』
『………いつか…来世でも良いわ。
…貴方と同じ身分になりたいの…
その時は、お話してくださる?』
(姫様……?)
思いもよらぬ言葉に、私はふと顔を上げてしまう。
姫は、物静かな表情で私を見ていた。ただ、目だけが悲しげで…
(許されるだろうか? 想いは伝わらなくても良い、ただ答えたい。)
『……来世………でしたら……』
言ってしまった。
(王に聞かれたら…首が飛ぶな…)
『…ありがとう、ハイネルシス…』
姫は小さく微笑み、去って行った。
(…約束、破ってしまったな…)

夕刻、私は庭で座っていた。
この位置は姫の部屋、そしと王妃様の部屋が見える場所で、何かあった場合にはすぐに行ける位置だった。
(…王はまだ帰らん…か。)
何時もなら、もうとっくに帰っている時刻になっても王は帰らなかった。
(…遅い…)
何かあったのか?そう考え始めた私だが、門の方に人が集まりだした。
やっと帰ったと思い、近付く。
(………!!)
それは王では無かった。
十人前後の騎士と、神官姿の男が門を押し破り、入ってきたのだ。
『何者!?』
剣を抜き、騎士達と対峙する。
だが、神官姿の男が騎士達を抑えた。
『我等はハンバート王国の法務部隊である!
この国の王、マクレイウスは宗主国であるハンバートの王の暗殺を計った。
よって大逆罪である。 連座により、アメリス王妃とクリス王女を連行しに参った。神妙にせい!』
一瞬、わが耳を疑った。
(王が暗殺を計った…?
…大逆罪だとぉ!?)
大逆罪、それはハンバート王国に歯向かう者に課せられる、最高に重い罪だった。
相手は服装からしてハンバートの法務部隊であることは間違い無かった。
歯向かうことは出来ない。
だが、大逆罪で捕えられた者は皆男女関わりなく死刑と決まっていた。
『…王女は…渡さん!』
どうせ捕まっても死刑…ならば、僅かでも希望がある方へ。戦うのだ。


紅館の花達の最初へ 紅館の花達 28 紅館の花達 30 紅館の花達の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前