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紅館の花達
【ファンタジー 官能小説】

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紅館〜白い騎士〜-2

『く…こやつ、抵抗する気か! やれ!』
神官の合図で、騎士達が一斉に剣を振り上げ走りよってきた。
『はぁ!!』
騎士達が振り上げた剣を振り降ろす前に横なぎの一閃で数名を斬り、さらに間髪入れずに間合いを詰めて一人二人と斬る。
『ぬぅ…』
神官はその様子を見て、動揺した。10対1の圧倒的有利な状況のはずが一瞬で5対1になったのだ。
(いける…この騎士達はそれほど強くない…)
仲間があっと言う間に半分になりたじろいだ騎士達に追撃を食らわせるべく再び間合いを詰めようと飛込んだ。
(………!)
だが、その足は止まり、距離を取る。
神官の後ろから歩んできた赤いローブ姿の獣人から発せられた威圧感に警戒したからだ。
(…こいつは…強い…)
見た感じは魔法使いのようだ。騎士達に下がるよう命じると一人無防備で私に近付いて来る。
『…縛。』
一言、獣人がそう言うと私の体は自由を失った。
突然両腕にかかった重力で剣が下がる。
(不覚…!)
普通、魔法使い相手は先手必勝、口を開かせたら呪文を架けられるからだ。
だが、この獣人が無防備に近付いて来たため、一瞬油断したのだった。
『くっ…!』
腕が上がらない…
『…言は空を生み魔により真となろう。 束縛の鎖。』
獣人がさらに呟くと地面から無数の鎖が出て、体に巻き付き完全に私を拘束してしまった。
『…お見事! さすが大公爵様。 白神鬼族が居ると聞いたので一応来ていただきましたが、我々とはレベルが違いますな!』
獣人の後ろから神官が嬉しそうに声を上げた。
『…さっさと済ませよう。』
獣人の方は特に嬉しくも無さそうに騎士達に命じ、騎士達は王宮に入っていった。
『…貴様ら、お妃様と姫様に危害を加えたら許さんぞ!』
ガチャリと鎖が音を立てる。頑丈で、私の力では千切れない…
『ハイネルシス!』
程なくして、お妃様と姫様が連れてこられた。
『うむ、アメリス王妃、そしてクリス王女。
大逆罪にて連行する。』
神官はハンバート王の命令書をお妃様に見せた。
『…わ、私は…いえ、クリスは…王女は何も知りません!
私はどうなっても良いのです…どうか、クリスだけはお助けを…!』
お妃様は跪き、涙を流していた。
『申し開きは審問所にて聞く、連れていけ!』
騎士達に立たされ、馬車の方へ歩かされて行く。
『ハイネルシス!』
姫が私を呼んだ。
『くぅ…離せぇ!』
ガチャリガチャリと音を立てるが、鎖はびくともしない。
『紅様! どうか…どうか娘だけは!』
お妃様は急に獣人に向かって叫んだ。

だが、獣人はただうつ向いて、お妃様を見ていた。
『アメリス…大逆罪では私とてどうすることも出来ない…』
『そ、そんな…』
その言葉を聞くとお妃様はガクリと泣き崩れてしまった。
『ハイネルシス! …私は忘れませんからね! きっと来世で…!』
馬車に乗せられる際に、姫様が叫んだ。
『姫……姫ーーーー!!!』
ガチャリガチャリと鎖が鳴る。無力…悔しくて、ただ切れない鎖を鳴らし、叫ぶしか出来なかった。

…馬車が出て、静けさが戻った。神官達はお妃様や姫様と一緒に行ってしまったが、ただ一人獣人だけが場に残っていた。
『ハイネルシス…だったね。』
『…だったらなんだ…!』
ふと、急に腕が、全身が自由になり私は前に倒れこんだ。
『君はこれからどうする?』
さっきとはまるで違う声だ。 表情が柔らかい。
『…姫様を助け出す…出来なければ…後を追う。
止めるなら力ずくで止めろ…』
本気だった。姫様を守る。その使命が私の生き甲斐、無くなればこの世界には用がない。居たくもない。
『…君、王女に惚れてるね。』
『! 惚れてなどいない、ただお慕いしているだけだ…』
何故私はこんなことをこいつに話しているのだろう…
敵だ。姫の救出を邪魔するなら敵のはずなのに…
『とりあえず、私と来なさい。
姫を助けたいなら…ね。』
そう言い、振り返り歩き出す獣人に私は少し悩んだ後に付いて行く。
足は自然と動き出したのだ、まるで予め決めていたように…
何者なのだ…?こいつは…?
何故だろう? 何故私はこうも簡単にこいつを信用するのか?


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