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『欠片(かけら)……』
【大人 恋愛小説】

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『欠片(かけら)……』-23

『何も言ってねぇよ。悪ぃけど、先に飯にするわ』

そう言って、まるで深呼吸するみたいに大きく息を吸って止める。そして……

『おい!直情バカ!!』

突然、課内に響き渡るほどの大声を出した。すると少し離れた場所からガタンと椅子が倒れる音がして、そこには直立不動の姿勢を取る亘の姿があった。それを見て寿也はニヤリと嗤うと

『頑張れよ!!』

そう付け加えた。不可解な寿也の行動に全員が茫然とする中で、一拍遅れて亘は敬礼の姿勢を取って

『はい!頑張ります!』

と寿也に負けないほどの音量で答える。その返事を聞いた寿也は背もたれに掛けてあるコートを肩に引っ掛けると口許を緩めて颯爽と室内から姿を消した。

『何?今の……』
『一体、何だ?』

ざわつく室内のあちらこちらからそんな声が聞こえて来る中で、おそらく当事者である亘だけが何事もなかったように倒れた椅子を起こして座り直すと仕事の続きを始めていた。



『さあ、亘!素直に白状しなさい。昨日、何があったの?』

 昼休みと同時にあたしは亘を屋上に連れ出すと、ベンチに座らせて詰め寄った。

『すいません、理由は言えないです』

けれど、苦しげにつぶやいて亘は口を閉ざす。

『あんたねぇ!無抵抗な相手に怪我させといて、そんな言葉で済むと思ってるの?』
『思ってないです』
『だったら、理由を言いなさいよ』
『……言えません』

身体にアザが出来るほど殴っておいて、その理由は話せない。そして殴られた方も理由は詮索するなと言う。もう何が何だかさっぱりわからない。

『あたしに関係してる話なんでしょう?だったら聞く権利はあるんじゃないの?』
『それは……』
『お願いよ、亘。聞かせてちょうだい』

しばらく無言の時間が流れた。俯いたままの亘は小さく息を吐くと

『やっぱ、上杉さんは凄ぇな……』

そうつぶやく。え?ってあたしが聞き返すと、そこでようやく亘は顔を上げてあたしを見た。

『俺と上杉さんが揉めた時、最後に言ってたんですよ。「澪には今日のコトを話すなよ。だけど、アイツは必ずお前から聞き出そうとするだろうけどな。」って』

寿也がそんなコトを?

『話しがある……昨日、上杉さんにそう言われて屋上に呼び出されたんですよ』

そして亘は再び俯いて、少しの間考えるような仕仕草をした後、もう一度顔を上げて

『気付いてました?上杉さんも澪さんが好きだったんですよ。本気で……』

そう言った。


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