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『欠片(かけら)……』
【大人 恋愛小説】

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『欠片(かけら)……』-24

『そんな!嘘でしょ?』

だけど亘はただ黙って首を振って更に言葉を続ける。

『俺に嫉妬していた……その気持ちに気付いてしまったから結婚することに決めたんだって言ってました』

寿也があたしのコトを?

だけど、亘に言われて思い当たることがあった。あたしの些細な変化に気付き、いつもさりげなく話し掛けてくれた。そう、彼も見ていたんだあたしのコトを……

『澪さんとの関係も聞きました。それで俺、キレて殴り掛かっちゃったんですけど、上杉さん全然抵抗しなかった』
『それは亘の方が強いからでしょう?』
『違いますよ。その後あっさりと俺に逆関節を決めて、「いくら総務課とはいえこれ以上、顔を殴らせる訳にはいかんな」って言ってましたから。本当は俺よりも強いはずなのに黙って殴らせてたんです』
『どうしてそんな……』

そこまで言いかけて、あたしはさっきの寿也の台詞を思い出した。
(……けじめって奴だな……)
まさか、黙って殴られたのは贖罪のつもりなの?

『お前みたいな直情バカが羨ましいって上杉さんは言ってました。善くも悪くも俺は大人になっちまったからって……』


《俺は韮崎に嫉妬していたのかもしれんな》


あの時の寿也の台詞は本音だったの?だから強引にあたしを……

『俺が今更言えた義理じゃねぇが澪を頼む。幸せにしてやれ、お前の純粋さでな。ガキにしか出来ねぇんだから……って、それが最後に上杉さんが……』
『俺が直情バカに言った台詞だよ』

離れた場所から声が響き、あたしと亘は一斉に振り返る。そこには屋上の入口に寄り掛かりながらバツの悪そうな顔で苦笑いを浮かべる寿也が立っていた。

『言うなって言ったはずだろ?韮崎。結局、喋っちまったのかよ』
『すいません上杉さん。俺……』
『寿也……あなた……』

両手をポケットに突っ込んで寿也はゆっくりとあたし達の方に歩いて来る。そしてすぐ側まで来ると金網のフェンスに寄り掛かった。

『なにもこんな寒いところで話さなくてもいいだろうに……』

背広の内ポケットからよれよれの煙草を取り出してくわえると、火を付けながら寿也はつぶやく。

『ねぇ、寿也……』
『宮原、もう名前で呼ぶのは韮崎だけにしろ』

寒空に大きく煙りを吐き出しながら、あたしの言葉を遮ってそう言った。

『おい、直情バカ。武士の情けって知ってるか?少しは気を使えよ』

呆然としていた亘は寿也の言葉に慌てて頷くと軽く頭を下げて出口へ歩き出す。

『大体のコトはアイツから聞いたんだろ?』

遠ざかる亘を見ていたあたしに寿也はそう言った。振り向いて頷くあたしを見つめ、つかの間微かに笑うと寿也は空を見上げて溜息をつく。


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