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アッチでコッチでどっちのめぐみクン
【ファンタジー 官能小説】

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アッチでコッチでどっちのめぐみクン-51

第15話 『田舎の宿屋』


「こんな小さな村の宿屋にしては、随分立派な建物だな」
 眼前に立つ二階建ての建物を見上げていたディグが、感心したようにそう言った。

 ユーゲン村に入ったディグとルーシー、サイファの三人は、村で唯一だという宿屋の前に来ていた。
 三人とも、ここに来るまでに見てきた、この村の他の建築物の様子から、まさか宿屋だけがこんなに立派なたたずまいをしているとは予想していなかったのである。

「まぁ、城下から割と近い所にある村だから、結構お客さんが来るのかもね」
 ルーシーが最近建てられたと思われる宿屋の小綺麗な外観をじっくり眺めてから答える。
「そんなことよりよぉ、早く中に入ろうぜ」
 完全に息が上がって顔色も悪いサイファが二人を促す。
「ああ、そうだな。ここの主人に話をつけないと」
 ディグはそう言うと、宿屋の扉を開いて、中へと入っていった。ルーシー達がそれに続く。

 三人が宿屋の中に入っていくと、宿帳や写真立てが置かれているカウンターで小柄な老婆が熟睡していた。その他に人影は見当たらない。
「……寝てやがる。随分不用心だな」
「きっと平和な村なのよ」
「こっちにも都合があるんだ。早いとこ起きてもらわんとな」
 ディグはカウンターで寝ている老婆へと近寄ると、肩を軽く掴んで体を揺する。
「お婆さん、起きてくれ。客だ、起きろ」
「……う〜ん……」
「婆さん! 起きろっ! 客だっ!」
「? ん〜? ……お客……さん?」
 体が強く揺さぶられ始めたところで、やっと老婆が半分だけではあるが目を開いて、ディグを見る。
「そうだ、客だ。部屋を借りたいんだ。起きてくれ」
「……ふぁ〜あ……あぁ……これは、どうも……」
 老婆がゆっくりカウンターに手をかけて、椅子から立ち上がる。
 そして、まだ眠そうに目をこすると、宿帳を手に取り、途中まで使われたページを開いて、ペンと一緒にディグの前へと差し出す。

「えぇと、こちらにお名前と住所を、お願いします」
「あぁ、ちょっと待ってくれ。ここに泊まるのは俺じゃなくて、あそこにいる連れの者だけなんだ。おいサイファ、早くこっちに来て記帳しろ」
 手招きをするディグに呼ばれて、サイファがどたどたと走ってくる。
「はい、はい、ちょぉっと待っててよ」
 サイファはカウンターまで来ると、急いでペンを取る。
「……住所を記入しなくてもいいかい?」
「……あちこちを旅してなさる方ですか? 定住している場所が無いのなら記入せんともよいですよ」
「あぁ、すまんね」
 了承を得て、サイファが自分の名前を書きだす。
「……この方お一人だけですか?」
「ああ、そうだ。俺達はこの村には泊まらずに、すぐに出かける」
「……婆さん、書けたぜ……おっと」
 老婆とディグの話を遮って、記帳を終えたサイファが宿帳を老婆に差し戻す。その際、サイファの肘がカウンターの上に置かれていた写真立てに当たり、ぱたりと写真立てを表側を上にして倒してしまう。
「あぁ、すまん」
「いえ、お気になさらずに」
「お孫さんかい? 可愛い子だね」
 サイファは照れ隠しに、ちらっと見えた少女の写真におべっかを使う。
「そうでしょう? 私の孫はこの村一番の器量良しになるだろうと評判だったんですよ」
 老婆のその言葉を聞いて、サイファは、あれ? 本当に可愛かったの? と思い写真をしっかり見直す。
 その写真には、十代前半と思われる少女が、くりっとした目をカメラに向けて、軽い笑みを口元に浮かべていた。いかにも田舎娘といった感じの純朴そうな風貌ではあるのだが、それでも洗練された都会の娘にひけをとらないだけの可愛さがある。


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