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エス
【純愛 恋愛小説】

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エム-6

「お兄ちゃん、キャベツつながってるー」

眉間に皺を寄せて妹が見事につながったままのキャベツを箸でつまんで上に引き上げる。父親はそれを笑いながら見てコロッケを一口齧った。

「まぁ、確かに太いわねえ」

母親も便乗してキャベツにソースをかけながらクスクスと笑った。

「うるせーな。手伝わなかったくせに」

俺はばつが悪くなり、ぶすりとコロッケに箸を差しながら答える。

「えー、でも酷いよー」

妹はなおも文句を言いながらそのつながったキャベツを口に無理矢理押し込む。

「まぁまぁ、いいじゃないか。手伝った真は偉かったんだし」

小学生を誉めるような言い方でコロッケを飲み込んだ父親が言い、ほうれん草のおひたしに手を伸ばす。

「そうよー。お母さん大助かりだったんだから。美紗もたまには手伝いなさいね」

俺への文句が美紗は自分へ矛先が向いて口をもごもごさせながら小さく頷いて、ばつが悪そうに笑った。



携帯にメールが入っているのに気づいたのは寝ようとベッドに横になった時だった。
送信してきたのは百合で、その文面を見て俺は眉をしかめた。

タイトル:馬鹿にしてるの?
本文:真、私の事馬鹿にしてるの?それとも私が方向音痴なだけ?上野眼科なんて無いじゃない。電話帳も調べたけど載ってないし、電話しても使われてないって。…どういうこと?

百合が絵文字も顔文字も入れないなんて、これは相当怒っている。
だが、そんな事より、俺は後半の文面に愕然としていた。

電話帳に載ってない?

何より、電話が使われてないって……。

ベッドの上で座ったままいつまでもその小さな携帯の画面を見つめていて、百合に返信をするのも忘れていた。



「母さん、今日帰り遅くなるわ」

オムレツとトースト、オレンジジュースに温野菜をいつも通りに胃に入れて、いつもより早く立ち上がりそう言うと母親は短くそうと答え、玄関へ向かう。

つけっぱなしのワイドショーは相変わらずエスを特集していた。

「いってらっしゃい、気をつけてね」



登校して一番に百合を探すと彼女は自分の教室で友達と談笑していた。
入り口から声をかけると、一瞬すごい顔をして睨んでから俺の方へ来た。

「何?」

眉を片方上げて少し低い声。すごく怒っているんだろう。

「俺うそ教えたつもりなんてないんだ。今日一緒に行こう」

百合はため息をひとつついた。それから呆れたように呟く。

「いいよ、もう」

「本当に、嘘じゃないんだ。ほら」

財布から診察券を抜いてみせると百合も怪訝そうな顔をしながらそれを受け取ってまじまじと見つめた。

「……でもこんなの作れるし」

俺の手の中にそれを返して、百合は踵を返し、友達の方へ歩いていく。

「放課後、待ってるから、教室で」

百合は返事をしなかった。


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