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ピアノ
【同性愛♂ 官能小説】

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ピアノ-5

「そういえばな、カノン弾いたの久しぶりなんだよ。ずっと、弾いてなかった」
「あ、そ…」
俯いたまま答えた。
こんな顔見られたら、絶対変に思われる。
「先生が、いつも弾いてたんだ。あの人に振られてからは、流石にしばらく弾けなかった。吹っ切れてからも、何となく弾いてなかった。好きな曲だったのにな…」

言葉を口に出す事ができない。
その人のこと、本当に好きだったんだろうな…。

「だから、お前が切っ掛けをくれなかったら、ずっと弾いてなかったかもしれない。ありがと、な」
そう言って、先生はまた俺の頭を撫でた。

もやもやが消えない。
どうすればいいのか分からない。
苛つきが、治まらない…っ。



“バァーンッ!”鍵盤を手の平で叩く。
けたたましい音が響いた。

「何して…。!」
先生のネクタイを思い切り引っ張る。
カシャンッと、先生の眼鏡の落下音が遠くで聞こえた。
驚きで開かれた先生の口に向かって、無理矢理キスをする。
「んっ」

“ガタッ”
立ち上がって、音楽室から走り出た。

「何してんだ俺…」




その日からしばらく俺は先生を避けた。
音楽の授業もサボった。
放課後も、京吾達とつるんで遊んでた。

正直会いたくない。会えねえよ。
どんな顔で会えってんだ。
この前の事聞かれたって、俺にだって説明できない。

いつも通り、京吾達と帰ろうとした時だった。

校内放送の声。

『3年C組大森泉。至急、音楽室に来ること』

…高橋だ。
「あーあ。泉、音楽の授業サボってっからだよ」
「わり。先帰ってて」

音楽室へ続く階段を上る。
正直、しんどい。心なしか足取りも重い。

音が聞こえる。

カノンだ。

音楽室に着いてしまった。
ドアに手を掛ける。
一瞬、躊躇った。グッと力を入れてドアを開ける。


足が止まった。
そこから見えたのは、とても扇状的な光景だった。
夕陽によって朱色に染められた音楽室で、唯一人先生がカノンを弾いている。
そこから動くことができない。
息をするのも忘れそうな感覚に陥る。
その時、初めて気付いた。
自分の気持ちに。


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