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『半透明の同居人』
【悲恋 恋愛小説】

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『半透明の同居人』-12

 「でも、お前はその再会がいい思い出にならなかったようだぜ?」
 「どうして?」
 「聞いたんだよ。ルイはどうだったかとか元気だったかみたいなこと・・・そしたらお前は、ルイって誰だ?知らないな、そんなヤツ。って答えるだけだった。喧嘩したと思ったんだけど・・・・」
 そこで、少しシンヤが眉をしかめた。そして、次の言葉を発するのに少し間を空けた。
 「お前の表情が、悲しいような、怒っているような表情でもなかったんだ。まるで、ルイなんて最初から存在しなかったように、お前はきょとんとしたような顔だったんだ」
 シンヤからその話を聞いても、僕は誰か他人の出来事の話をされているような気分だった。自分には全く覚えが無いことだった。僕は幼稚園のことから小学校の低学年のことを鮮明に覚えているけれど、僕の思い出の中にルイの名前どころかその姿が、存在が全く欠落しているのだった。
その後飲み会は日付変わるまで続いたが、僕はずっと上の空だった。
飲み会後にすぐに実家に戻り、まだ起きている母に話を切り出した。母親なら、僕の小さい時のことを覚えていると思ったからだ。母をダイニングテーブルに座らせると話を切り出した。
 「あのさ、俺が小学校の低学年の時、この家で女の子呼んで遊んでなかった?」
 その話を聞いた母は明らかに目に狼狽を見せ、目を泳がせた。僕は母が何かを知っていると確信した。
 「・・・さあ、大分昔のことだからねえ。あんたが中学や高校の時に彼女を家に連れてきたことは覚えているけど」
 母はそう言って表情を隠したが、それは不自然なように言葉が宙を漂った。
 「大事なことなんだ。そして、遊んでいたはすなんだ。名前がルイという女の子と」
 母はその名前を聞いて目を剥いたが、すぐに表情を元に戻すとどこか遠い目をした。
 「あなたがそこまで思い出すなんてね・・・」
 思い出したわけではないと言いかけたがやめておいた。そして、静かにそしてゆっくりと母は話し始めた。
 「リクが小学校の2年のときだったかな?確かによく、ルイと言う女の子が遊びに来ていたわ。あなたたちはとても仲がよかった。良過ぎたと言った方がいいかもしれない。それは、悪い意味ではなくてね。本当に、兄弟みたいに仲がよかったわ。でも、やっぱり仲が良過ぎたのかもね。3年生に上がる前にルイちゃんが転校してしまった。引越し先は一生会えなくなるってしまう距離ではなかった。県内だったし、でも、小学生のあなたにとってその距離は今生の別れのように感じてしまったかもね。その時のあなたの落ち込み様ったら、親から見ても本当につらいものだった。でも、すぐに慣れていずれは忘れる・・・までは行かなくても元に戻るだろうって思っていたの。だけど、それは勘違いだった。リクは半年経っても元気が無いままだった。口には出さないけど、それはルイちゃんに会えないからだとわかったわ。見かねて、私はルイちゃんに電話しようかって提案したの。もしかしたら、会えるかも知れないと言ったら、あなたは目を輝かせてルイちゃんに電話をかけていたわ。そして、あなたはルイちゃんと再会する約束を交わした・・・・」
 「母さん・・・さっき、思い出したって言ったよね?それって、俺が忘れていた、もしくは記憶をなくしていたってことだよね?でも、そんな思い出に残るようなことを忘れるのはおかしくないか」
 母はそれを聞いて悲しげな顔をした。
 「あなたは、意図的に忘れたんじゃない。それは一種の自己防衛本能といってもいいかもしれない。強いトラウマが自分の身に起きたときに、本能的にその事実を忘れてしまうように・・・。それと同じようなことがあなたに起こったのだと思う」
 「強いトラウマ・・・」
 「それが、それから起きたのよ。私はあなたを連れてルイちゃんの引っ越したへ車に乗せて連れて行った。ルイちゃんの越した先はマンションで、駐車場が無かったから近くの公園に停めたの。ルイちゃんは公園まで迎えに来てくれることになっていた。少し待っていると道路を挟んだ先にルイちゃんは立っていたのをあなたは見つけた。そして、あなたはルイちゃんを呼んだ・・・」
 「ちょっと、待って・・・まさか・・・」
 頭が痛い。まるで、本能が僕の脳に思い出してはいけないと命令しているかのように僕の頭を締め付けるのだった。でも、僕はその一部始終を思い出してしまった。


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