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『半透明の同居人』
【悲恋 恋愛小説】

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『半透明の同居人』-1

プロローグ

@幽霊はタバコの煙が嫌い
A幽霊は一度憑くと離れない
B幽霊は・・・・

この幽霊三か条は僕の田舎に纏わる言い伝えだ。
言い伝え?
それも少し怪しい。実は子どもの中だけで広まった単なる噂だったのかもしれない。それでも、僕はその言い伝えを当時信じていた。
いまでも、たまに思い出す。それは決まって8月のど真ん中の糞みたいに暑い日だ。テレビ番組はこぞって、心霊特番を放送する。それを観てふと、僕はその三か条を思い出すのだった。


 この日もテレビのチャンネルを合わせるとそこでは心霊特番を映し出していた。内容は数年前から余り変わらない。古いトンネルやら廃校やら海で足をつかまれて引きずりこまれるやら・・・僕は6畳一間の万年床に寝転びながらそれを眺めていた。
@幽霊はタバコの煙が嫌い
A幽霊は一度憑くと離れない
B幽霊は・・・
 「あれ?なんだっけな」
その日はどうしても三か条の3番目が思い出せないのだった。それでも、あまり気に留めずに僕はテーブルの上のハイライトに手を伸ばした。心霊番組を見ながら、紫煙を燻らせる。僕は霊能力が全くないし、霊体験をしたことは一度もない。その癖に、僕はひどく臆病だったのだ。だから、僕が煙草を吸い始めたきっかけは三か条の1つの「幽霊は煙草の煙が嫌い」に感化されてのことだった。僕にとってこの行為は一種の魔除けみたいな効果のためであるのだ。
急に、尿意をもよおしたので、僕はトイレに立った。僕はこのトイレが余り好きじゃなかった。照明は小さく暗く、そして、ひどく狭かったのだ。怖かったといってもいい。それが、今日はいつもに増してひどかった。早くこの閉鎖された空間から抜け出したかった。僕はそそくさと所要を済ませるとトイレを後にした。トイレから出ると僕はすばやく万年床のある6畳間の扉を開けた。しかし、見慣れているはずのその空間は何かいつもと違っている。はじめはわからなかった。ハイライトの乗った白いテーブルも湿気を含んだ万年床も心霊番組を流しているテレビもいつもと何も変わりなかったから。でも、一つの違いに僕は気が付いてしまったのだ。白いテーブルに添えてある青い座椅子にいるはずのない人間が座っていることに。
声が出なかった。恐怖に足が震える。いったい自分に何が起きたのかわからなかった。でも、頭は妙にさえている。座っているのは・・・女性か?髪が少し栗色の・・・長さは座椅子の背もたれに隠れて判らない。どうする?しかし、どうすることもできない。俺の脚はまるで、絶対零度の環境にそこだけおかれたかのように、全く動けないでいるからだ。座椅子に座っている人の形をしたそれは肩を揺らす。音は何も聞こえない。聞こえないのか、音がないのかそれすら僕には理解できない。その動きがふと止まった。そして、ゆっくり僕の方へその顔を向け始めたのだ。
「あれ?案外早かったね?小さい方か?」
それは、こちらに顔を向けた。確かにそれは顔と認識できるものだった。やや色素の薄い大きな瞳が僕を見つめていた。テレビで見るような、血だらけで憎悪に満ちた目でぼさぼさの長い髪ではなく。むしろそれは綺麗な瞳で髪はストレートで肩まで伸ばしている。血どころかシミ一つない綺麗な顔だった。それは、僕から一瞬顔をそらすとゆっくりと立ち上がった。そして、僕の方に近寄ってくる。
「ん?どうしたの?もしかして、びびってる?そうだよねートイレから出たらいきなり知らない女が座って漫画読んでるんだもんね。」
それの手には僕が昨日買ったばかりの少し古いタイプのギャグが載っている漫画だった。
「これ、面白いね。2巻ないのかな?」
それは、漫画を探すのか本棚に歩み寄った。がさごそと本棚をいじっている。


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