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ミライサイセイ
【悲恋 恋愛小説】

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ミライサイセイ final act 「未来、彩、say」-2

あれから色んなものを失って、色んなものを手に入れて。
そしてまた、色んなものを失っていく。
繰り返しの果てに、自身に残るものはあるのだろうか。
いぃち、にぃ、さぁん、しぃ。
グランドに響く掛け声。
それは、きっとあるだろう。
あやと、大地と過ごした思い出がある。ミクに捧げた愛がある。そして、兄さんが残してくれた人生が、ずっとずっと広がっている。
先生の言うとおり、一度経験したものは、ゼロにはならないんだ。
「はは」僕は笑った。
「どうした?」怪訝な表情で、先生は僕を見る。
「いえ、そう言えば、先生。まだあの授業、やってるんですか?」
「ん?ゼロについてか?」
「そうです」
「いや。もうやめた」
「えっ?どうして」
んん〜、と腕を組んで屋代先生は唸った。「今まで、何百人という生徒に対して同じ授業をしたけれど、興味を持ったのは二人だけだったから」
「二人?」
「あぁ。お前と、お前の兄貴だよ」
初耳だった。「兄さんが?」
「奴も、お前と同じように目を輝かせて聞いたよ。みつひさはとりわけ、時間についてだったが」
「時間、ですか」
「時間だって、どんなに細かく区切ったってゼロにはならない。数学的にはΔt。無限小の時間間隔。それを俺たちは、瞬間と呼ぶ。ゼロから生まれるものも、ゼロに収束するものもない」
『日々は、瞬間の連続なんだよ』いつかの兄さんの言葉が蘇る。
『だからそれを疎かにしてはいけないんだ、あきら。目に付かない、取るに足らない小さなモノにこそ、意味があるのさ』
そう言った彼は、どこに行ったのだろうか。
「あのな、これは自論だが」そうやって懐かしい講義が始まる。
「この世界はな、ゼロでないもので構成されているんだ。だから『無』とつく言葉すら、俺は許容できない。例えば、無意識ではなく、それはどこかで意識している。無感動と言いながら、感動している部分がある。無意味と叫んだって、意味は必ず隠れているものだ」
やっぱり僕は、屋代先生の言葉が好きだった。
この三年間を思う。
あやと別れ、彼女を独りにさせた。
それはある意味、必要な時間だったのかもしれない。仮に、あの時、あやの将来を知ったとしたら、それでも尚、僕は彼女を愛せただろうか。彼女が死ぬという事実を、またひとり取り残されるという現実を、僕は受け入れられただろうか。
ミクと出会い、彼女を置き去りにした。
僕らを繋ぎ合わせたのは、紛れもなく愛だった。彼女は、僕を乗り越えてくれるだろうか。装飾に乏しいネックレスを振り払って、新しい未来を掴めるだろうか。きっと出来るだろう。だって彼女は、その名に刻まれているのだから。
通り過ぎた日々は、無意味ではないだろう。
今から、また、あの校門の続きを始めるけれど。
あいだに挟まれた三年間は、きっと不可欠な瞬間の連続。
「そうですね。意味に溢れた日常に、僕らは身を置いている」
柔らかな時が流れる。
――― 気持ち悪い
予想だにしない方から声がして、先生と僕は振り向いた。
そこには、あやがいた。
「へぇ、なるほど。そういうことか」頷いて屋代先生は、教室を出て行こうとする。
「先生、気持ち悪いそうです」僕は、追い討ちのように声をかけた。
「そりゃ、当たり前だよ、お前。だからこの授業をやめたんだ」言って彼は、教室を出ていった。
取り残される形で、懐かしい教室に、僕とあやが二人。
「急に学校に来いって、こっちの都合も考えてよね」開口一番に不平を洩らす。
「ごめん。でも、ここじゃないと駄目なんだ」
さぁ、あの時の続きを始めよう。
「大地が好きなんだって?」
「えっ?」
あやは困惑した表情を浮かべる。


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