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ミライサイセイ
【悲恋 恋愛小説】

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ミライサイセイ act.1 『歯車の音』-1

「あきら、待ってよ」
彼女は、いつものように小走りになる。
「あ、ごめん」
僕は、それに気付き、いつものように歩幅を狭める。
「あんた歩くの早すぎだわ。少しはレディ・ファーストってものを知りなさい」
あやが遅いんだよ、と言おうとしたが、それもまたいつも通りの展開が待っているので、やめることにした。
見れば僕らを受け入れる高校の門は、すぐそこにある。生活指導の鬼のような表情が、門の横に備えられ、『ここを通りたかったら俺を倒してからにしろ』と言いたそうに、登校するものを睨みつけている。
「あの顔は犯罪よね」あやは呟いた。
「まったくだよ」僕も呟いた。
たったった
後ろから軽快に走る足音が聞こえる。
「お、来たな、陸上部の星」あやは大声を上げた。
大地が、地面を蹴る。
その表現は奇妙に感じるが、彼は「へぇ、そりゃあ詩的だな、あきら」と笑う。中性的な容姿から放たれるスマイルは、多くの女性の心を惹きつける。けれど彼は動じない。全国でも稀な跳躍力と相まって、その人気は衰え知らずだ。なぜ僕とだけつるむのか、その理由を知るものはいない。僕にとっては、多少迷惑な話だ。彼と並ぶと、僕が勝っているところなど何ひとつ無いのだから。
それでも大地は言う。「それは自分のことを知らないからだ、あきら。お前は俺より優れているものを多く持っているよ」
その謙虚さは、彼を更なる高みへと導いていく。
「それとさ、俺から見れば、もっと完璧な人間は沢山いる。際立っているのは、もちろんお前の・・」
「あぁ、分かっているよ」
その先は言わせない。僕は冷ややかに拒絶する。大地は、哀れみに似た表情を一瞬浮かべ、「そろそろ許してやれよ、あきら。そんなのは哀しいだけじゃないか」と呟く。
そうさ、死者を顧みることは、果てしなく哀しい。
だから僕は許すことなど出来ないんだ。
一生、許すことは出来ないんだ ――― 僕自身を。

たったった
一定の歩幅で、軽快なリズム。聞けば、陸上経験者であることはすぐに理解できる足音。
「おい、遅れるぞ、御両人」
言って大地は、僕らを抜かしていく。
僕は、何故だか分からず嬉しくなり、あやの手をとって走り出した。
「ちょ、ちょっと、早いよ」
彼女も笑顔で、言葉とは裏腹に走り出す。
正面には、鬼の顔と、親友の背中。
手には恋人の温もり。
何気ない日常の幸せに。
自然と溢れ出す笑顔は、最盛のひととき、か。
チャイム鳴り響く学び舎に、僕らは滑り込むようにして、日々を暮らす。

人生の彩りは、共に過ごす仲間たちとの時間によって鮮やかになる。
「へぇ、そりゃ詩的だな、あきら」大地はいつものように、からかうけれど僕はそう思う。
「でもそれは、あやが好きだってことを暗喩しているんだろ?」あやの目の前で、彼は言う。普段冷静な男は、僕らの前でのみおどけて魅せる、さながら僕らの為の道化師のようだ。
――― どうしてそこで、あや一人が対象になるのさ。僕の話を聞いていたのか?
そう言おうとして、あやの漢字は『彩』と書くと気付く。
人生の彩り。
何て恥ずかしい言葉を、僕は吐いてしまったのか。
横を見ると、真っ赤な顔をしたあやがいる。彼女は突然の事態に対処できない弱点がある。
普段はしっかりものなのだけれど、準備していない物事に対して人並み以下の反応しかできない。何て可愛いのだろう。
今にも蒸発しそうな彼女の表情を見て、僕は恥ずかしい言葉を吐いて良かったなぁと内心思う。
そんな二人を見て、大地はニヤニヤする。「はいはい、ごちそうさん、ごちそうさん」
そんな大地を見て、僕は幸せになる。
僕を彩っているのは、だからやはり仲間たちなのだ。


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