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銀の羊の数え歌
【純愛 恋愛小説】

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銀の羊の数え歌−19−-2

「それにしても寒いなぁ」
コートのポケットに両手を突っ込みながら歩く真壁がぼやいた。
「そろそろ雪降るんじゃないか」
ヤツの隣りを歩きながら、雪か、と心の中でそっと呟いてみる。確かに、この寒さだとそろそろ降り出すかもしれない。ということは、うまくいけばホワイトクリスマスか。
「うげぇ。ホワイトクリスマスか」
どうやら同じことを考えていたらしい。
真壁がものすごくいやそうな声で唸った。
「なんだよ。いいじゃん」
と僕が言うと、ヤツはわざとらしくブルブルとかぶりを振った。
「独り身にホワイトクリスマスはきついな。まぁ、お前はいいかもしんないけどさ」
「なんだよそれ」
いたずらな笑みを向けている真壁に、僕は苦笑した。柊由良のことはヤツも知っている。だいぶ前に僕が話したのだ。付け加えて、自分の気持ちも一緒に。
そのことに関して、真壁は別段驚くこともなく、かと言って、たいして関心を示すわけでもなかった。もともとそういう性格なのだ。 なんというか、興味があるのは自分自身のことだけで、他人の話題はきくだけはきくのだが、それ以上もそれ以下もない。そこで終わり。
だから他の奴よりもよっぽど口が堅いし、信用も出来る。なにか肩にのしかかっていることを告白するには真壁はちょうどいい相手なのだ。言ってみればヤツは『王様の耳はロバの耳』で出てきた、あの穴のようなものだ。 「で、まだ探してるのかよ。あの本」
真壁は横目で僕を見ながら言った。
「なかなかないんだよ。どこの本屋にいってもさ、置いてないの」
「そりゃそうだ。何年前のもんだよ」
苦い顔をしてヤツは言った。
二人とも白い息を吐き出して、まるで巨大な冷凍庫の中にでも入っているかのようだ。
そんなことを思っていると、今度はさっきよりも真剣さを帯びた口調で、真壁が言った。 「ちょっと気になったんだけど、お前さ、その本をプレゼントするのが、クリスマスに自分に出来る全てだと思ってないか?」
僕はげんなりとしたため息をついた。
「他で売っている当たり前のプレゼントより、よっぽど彼女は喜んでくれると思うよ」
「ばぁか。そういうことを言ってるんじゃねぇよ」
と真壁が言う。
「それじゃあ、どういうことだよ」
負けじと言い返す。と、その会話の合間に微妙な間が滑り込み、その後に続いて、
ヤツは静かにこう言ったのだった。
「お前、彼女に自分の気持ちをちゃんと伝えてやったのかよ」


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