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マニア雑誌で見つけた素敵な人々
【歴史物 官能小説】

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【3】連れ込み旅館女将-1

【『ひるがお』昭和XX年4月号「連れ込み旅館女将の独白」より。女将(五十八歳)】

 そうですねえ、この旅館をはじめてかれこれ三十年くらいになりますかね。わたしはさる旦那の第二夫人で、ありていにいえばお妾だったんですよ。それで旦那と切れることになって手切れ金とこの旅館をもらったんです。お金はわずかなものだったから、手切れ金代わりの家というところですわね。わたしより前のお妾さんに持たせてたそうだから、ここではもっと前からやってたんでしょうけどね。名前はわたしがもらってから変えました。前の名前はなんていったのだったかしらね。もう忘れちゃいましたよ。

 部屋は八つあるんですよ。下に四つ、上に四つ。もう少し狭く仕切ったらよさそうなもんだけど、昔はこんなもんだったんでしょうね。いちいち床の間があったりしてね。掛け軸もかけなきゃなんないし。季節もかわったしそろそろ替えないといけないわね。はじめの頃はわたしも張り切ってお花を生けたりもしたんだけど、最近は全部の部屋まで手が回らなくてね。雇のおばあさんとその娘さんとわたしで布団をあげたりおろしたりするのがせいぜいで、手間をかけるひまもあんまりないわね。部屋数ももっと増やしたらいいのになんて考えたこともあったけどもう増やせません。もう古い家だからお掃除だけはしっかりやってますけどね。廊下を歩くとぎしぎし言うんだけどこれはもうしかたないわね。手すきになったらおばあさんの腰を揉んであげたりこっちも揉んでもらったり。あーとかうーとか呻きながら色気もなにもあったもんじゃないわね。あんまりくたびれたら、玄関に「おあいにくさま、満室です」って札をかけて断っちゃう。遅い時間にお客さん入れちゃうと帰るに帰れなくなっちゃうしね。住み込みじゃないから最後は鍵かけて帰らないといけないんですよ。おばあさん一人置いていくのも何だかかわいそうだしね。こういう旅館のくせに夜中には閉めちゃうんだからおかしいわよね。

 布団の上げ下ろしで腰が痛むぐらいだから、まあまあ繁盛はしているってことだわね。うちはこんな路地の奥にあるし広告も出したりしてないから、お見えになる方はどこでご存じになったのかしらねって不思議ですけどね。目立たないだけ追放運動みたいなのにも巻き込まれなくて済んだかもしれないわね。

 昼ぐらいには開けるんだけど、部屋がすぐにいっぱいになる日もあるから大したもんだわね。場所柄あんまりじろじろ見たりもしないけど、おかしな客じゃないかどうかくらいは見てますよ。ちゃんとした夫婦なんだけど、家に親か子供でもいるんだろうかね。するとこがないから来ましたよっていうような常連さんの夫婦もあるし。ニッポンの住宅事情じゃあ仕方ないわよね。昔は、見てもみぬふりをしたもんだけどね。

 いたす部屋には事欠かなさそうないかにもいいとこの奥様みたいな人もいっぱい来ますよ。相手は若い男だったりおじいさんだったりそれぞれですね。あれ、こないだ来た人だけど今日はお相手が違うんだね、なんてことはしょっちゅうですよ。お盛んだわよね。そんな人たちで部屋がいっぱいになっちゃって、するところがなくてやってきた若夫婦が恥を忍んで、あいてますか? なんて帳場に声をかけたときに、どうぞって上げてやれないのは切ないわね。ただのアベックだったら婚前交渉はまだはやいよって追い返しても別に気も咎めないんだけどね。こればっかりは早いもん勝ちで、やってるところび押し入ってって追い出すわけにはいかないですからね。

 それにしてもどこでどう折り合いつけてるんだか知らないけど、真っ昼間からいい歳した男女がねえ、っていつも思いますよ。夜中は閉めといてこんなこと思うのもおかしいけどね。人様のことを詮索できるようなご立派な商売じゃないけど、布団を片付けにいったりして廊下を通ればどうしても声が聞こえてくるんですよ。そしたら女の人が「せんせい、せんせい」ってね。こどもの学校の先生なのかしらね。先生だろうが人妻だろうが所詮は男と女だものね。職業に貴賎なしとはよくいったものだわね。そんなのが少なくないですよ。部屋から帳場に下りてきてアレもうないかしら? なんてコンドーム取りに来たりしてね。それこそ追放運動の先頭に立ってそうな上品そうなひと。三つもあれば足りますかしらね? ってからかったつもりが、恥ずかしがるどころか五ついただいとくわ、なんて切り返してきてね。見た目は上品でもみんな女なのよね。

 大きなお腹して来る奥さんもいるから大したものですよ。ご亭主もまさか身重の妻が昼間っからこんなところで間男といちゃついてるなんてご存じないんでしょうね。夫婦じゃないのかって? まあ、夫婦ではないわね。名前でなくて名字で呼び合ってるんだもの。お腹の子の父親なのかもしれないですけどね。まあ、でも、孕んでいようがなにしようがしたくなったらしたいもんだから仕方ないわね。だけど慌ててお産婆さんを呼びに走らされるのはご勘弁願いたいですわね。

 わたしも還暦近くになってきたしそろそろ潮時かもしれないとは思ってますよ。でもまああと十年くらいはやってるんじゃないでしょうかね。男も女もやりたいことは昔も今も一緒ですからね。上には上がいるものでとっくに女も上がってるんだろうっていうご婦人もよくお見えになってますよ。連れの男とちょっとお酒呑んだりしてね。お部屋のお花が綺麗だったわねなんて言って帰っていかれますよ。もちろんちゃんとすることはしてね。女は灰になるまでとはよく言ったものですね。わたしもあやかりたいと思いますよ。


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