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パルティータ
【SM 官能小説】

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パルティータ(後編)-3

…………


そういう夢を見ることが女にはとても不思議に思えた。なぜなら夢の中のストーリーは彼女の記憶のどこにもなかった。でもそういうことが過去にほんとうに起きなかったとは言えるのだろうか………。

真夜中の暗い道を男とふたりで車を走らせていた。その男が誰なのかはわからない。別れた夫かも知らないし、違う男かもしれない。ただ、女は男の肩に頬を寄せるほど親しい男だったように思えた。車はいったいどこに行こうとしているのかはわからない。
そのとき突然、暗い影に急停車をさせられた。そして車から引きずり出された運転席の男は、車の外にいた大柄の男に殴られ、女は別の男に草むらに押し倒された。女のスカートが乱され、忍び込んできた男の手が荒々しく下着を毟り取った。そして彼女はのしかかってきた男に犯された。ひとりの男が射精を終えると、今度は彼を殴った男が女にかぶさり、堅いもので彼女を貫き、執拗に犯した。殴られた運転していた男は弱々しい虫のように地面に這いつくばり、目の前で犯される女の姿をただ見ていただけだった。彼は女を男たちから奪い返すこともできず、彼らに抵抗することもなかった。

夢の次のシーンでは、女は全裸で檻の中に監禁されていた。その姿を檻の外から覗き込んだ端正な顔をした男は、さらしの黒い褌(ふんどし)だけを纏い、油を塗り込めたように艶やかで強靭な胸郭とたくましい筋肉に充ちていた。整った美しい顔をしたその男は、女を犯したふたりの男とは別の人物だった。肉体として充実した腕や腹部、そして太腿へと続く胴体は無駄なく引き締まり、檻の中の女は男の肉体に息苦しいほど胸底を震わせた。
廃屋のような場所で、全裸にされた男が柱に縛りつけられていた。運転席にいた男だった。うつむき、ぐったりとうなだれている。車の中で隣同士だったのに、やはり見覚えのない顔……いったい彼は誰なのか。女はどうしても思い出せなかった。
褌(ふんどし)の男が檻の中の女に囁いた。「あなた方夫婦は、《当事者》です………」
 理解できなかった……男が吐いた当事者という言葉が。そして柱に全裸で縛りつけられた男が自分の夫であることが。
「よく見ておくことです。あの男が、すでにあなたの夫でないという証し(あかし)は、これから行われるあの男に対する私刑(リンチ)によって明らかなものとなるのです」
 柱に縛りつけられた男の傍には黒いボディスーツで身を包んだ髪の長い、ゲイと思われる色白の面長の顔をした男が薄い笑みを浮かべながら煙草を吸っていた。自分の夫だという男は虚ろな眼をし、柱に縛りつけられ、濡れ雑巾のような貧相な肉体を晒していた。何よりも痩せた太腿の内側に萎えて垂れたペニスが無力な彼の体を示していた。
 黒いボディスーツのゲイの男は、笑いながら咥えていた煙草を指先でつまむと柱に近づき、縛られた男のペニスに煙草の先端をゆっくりと近づけていった。紫煙が男の陰毛にまぶされ、火がついた煙草の先が陰毛を微かに焦がした。うなだれている男は瞳の中にある光を揺らめかせた。ゲイの男は煙草の先端で彼の肉幹の表皮をなぞった。

 うぐぐっ………
 猿轡をされた男の唇の端から、くぐもった嗚咽が烈しく洩れ、彼の太腿が強ばる。侮蔑の薄笑いを浮かべたゲイの男は煙草の先端で彼の垂れ袋を淫靡になぞり、その先端は肉幹の根元から幹の包皮を這い上がり、亀頭のえらを紫煙で曇らせる。煙草の火はしっとりと皺枯れた包皮に微妙な触れ、男の苦痛を淫猥に煽る。でも男はその苦痛にもかかわらず、その刺激に洗脳されたように瞳を恍惚と弛ませながらも烈しく勃起を始め、肉幹をぶるぶると震わせている。

 あぐっ…………うぐぐっ……
 じりじりと男の肉茎の皮膚が煙草の火で焦がされているというのに、びくんびくんと揺れ動くペニスが伸び上がり、烈しく喘いでいた。その惨めなペニスを自分の体の中に含んだ記憶が女の中に甦ってきたとき、女は縛られた男を憎悪し、自分の惨めさに嫌悪をいだいた
 一瞬、男の下半身が強ばり、息絶えたように弛んだとき、男は射精した。飛び散る白濁液………女はそのとき、樹液に含まれた男の体温を自分の体の中に感じたのは間違いなかった……。


女はいつもの自分の部屋のベッドの上で眼を覚ました。とても長い夢だったような気がしたが、枕元の時計の針はさほど進んではいなかった。
窓のカーテンが微かに揺れていた。外の風景はいつもと何も変わりはなかった。ただ、《誰かの、男の気配》だけが微かに漂っていた。もしかしたら夢の中の縛られた男がここにいたのかもしれない。彼女にとって意味のない男が……。そしてその男は二度とここに戻っては来ないような気がした。そのことが女に夢を見させたのかもしれないと思った。


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