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イブ 茨人形
【ファンタジー 官能小説】

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イブ 茨人形-9

「ご主人様の言いつけを素直にお聞きになったほうがいいですよ。その方が、結局は苦しまなくていいのです。私のような体になったら、もうどこへも行けません」
≪事故じゃないんだわ≫ 「たすけて」もっと微かに言いました。
「ここにいる限り助かりません」
「逃がして」
「逃げようとしたら、こうなるのですよ」かすかに暗い感情を見せます。
やはり、事故なんかではないのです。
「どうすればいいの」
「ただ、言うことを聞いて、飽きられないようにすることです。これが運命なのだと自分に納得させることです」
「そうしてきたから、こうなってしまったのよ」
「私と同じですね」悲しそうに笑います。「どうしてもと言うなら、ひとつだけ方法があります。あなたにはそれをする勇気があるかしら」
「なんでもする」
「そうですか。そのまま横になっていればいいだけです」
ほっとします。何でもする、といっても私にできるわけがないのです。『何とかして』と言いたかったのです。
メイドが顔の上にタオルをかけました。そして足を開かせるとそこをマッサージし始めます。
タオルが浮いて、その姿が隙間から見えました。
「気持ちいいですか」 私のかすかな喘ぎを聞き逃しません。
メイドがそこをこすりながら「もっと感じていいのよ、これが最後なのよ」何かを手にします。
鋭いはさみでした。
「こんなものを持っているから狙われるのよ。切り刻んでやれば捨てられるの」それを股めがけて振り下ろそうとします。
「フールーたすけて」

―――メイドの手が空中で止まりました。
『元気な女だ。お前も命拾いをしたな』 フールーが笑い、ハサミをたたき落とします。
私は複雑でした。傷つけられるのはいやでした。でもこれがなかったら誰も私を狙ったり、利用しようとはしなかったはずなのです。
本当はこれで救われたのかもしれません。でも怪我のなかった自分を喜び、ほっとしていました。≪どうすればよかったの、誰か教えて。たすけてよ≫
助けてくれるのは、フールーしかいません。危機の時には、いつも近くにいてくれました。
『さて、この代償は大きいぞ。何を頂こう』フールーが言います。フールーとの会話は他の者には聞こえません。
『うるさい。私が死んだら、おまえだって困るんじゃないの』
『お前ほど困りはしないさ』
『聞きたくない。左の聴覚をやる』 とっさに言ってしまいました。
ひどい耳鳴りがします。左の耳でした。フールーは一瞬で消えていきます。―――

「救けて、たすけて」
ハサミを落としたメイドは、同僚たちに押さえつけられていました。
「あなたも馬鹿ね。お人形でいればいいのに」髪を引っ張り顔を床にたたきつけます。
同僚のメイドに対しては慈悲というものがありません。
「おとなしくしていれば、せめてメイドごっこに使ってもらえたのに、これでもう豚の餌だわ」
私は執事に連れられ、そのまま寝室に入れられました。食事を運んでこられましたが、食べる気はしませんでした。
夜までベッドに寝ころんで過ごしました。
学校へ行くはずだったのに、私が行ってないことに気が付いて、誰か心配でもしてくれていないだろうか。
「お加減はいかが」と尋ねて来てくれはしないだろうか。
来るわけがありません。好かれていないのだから。
それに、ここにいることも、だれも知りません。
勇気を持って声をかけてくる男子生徒はいました。親衛隊の隙をぬって近づいてくると、デートの誘いをしようとします。
でもそんなのは無理でした。放課後になると親衛隊の二人が横についてきます。男子が強引に約束を取り付けても、結局行くことはできないのです。
その後は家に帰らないと兄が怒ります。
兄が怒ると、姉が出てきて私をいたぶりました。
待ちぼうけをくらった男子生徒が、この困難を乗り越えて来てくれるようなことはありません。
「裏切りやがって」「お高くとまりやがって」恨みがましい目で見てくるだけでした。
≪誰か私を助け出して≫ そんな白馬の王子様は、現実には存在しませんでした。
そして、やってきたのはシダ卿でした。


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