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人気少年【制約】
【学園物 官能小説】

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人気少年【制約】-9

日は暮れかかり、空はまだ少し青を残してるもののほぼねずみ一色に染まりつつある。
吹き付ける強くて冷たい風が、いまは真夏だということをすっかり忘れさせる。
……こんな夜中に外に出たのはいつ以来だろうか。ボクは思った。
自転車にキーを入れ、ロックを外す。飛び乗るようにして乗り、ボクはまず春霞の家へと急いだ。
ほぼ近所の春霞の家にはすぐ到着したけど、さすがに早く来過ぎたか、春霞はまだいない。
自転車から降りないままに、『雨宮』の表札の横の呼び鈴を一度、押す。
呼び鈴の奥から『ゴメーン真緒くん!いま行く!!』と声が聞こえ、ほどなく春霞が現れた。
……ちゃっかり私服に着替えている。
「ゴメンねー、ちょっと着替えててさ……じゃ、いこっか」
春霞はボクの返事を待たないまま自転車に乗った。
「麻理子ちゃんの家は駅の近く。結構すぐつくよ」
春霞が先導するように走り出す。ボクはその後ろについて走り出した。
思った以上に風は強い。ポツポツと、ほんの少しだけだが雨粒も降ってきている。
なだれ込むようにぶつかってくる向かい風が感覚を麻痺させる。麻痺した感覚がボクに考える猶予を与える。
――明日引っ越しってことは、引っ越しの準備とかで忙しいはずだよな。急に行ったら迷惑じゃあ……?
――いや、明日行くよりはいいだろう。それにボクは麻理子と少し話をするだけ。何も手間取らせない。
――まったく、なんでいつもボクはこう色々考え込んでしまうかなあ?
尚早な決断をしてしまったのではないかと色々不安に思うのにその一つ一つに律義に弁解していく。その節々で意味のない自己嫌悪に陥る。
そんなことを延々繰り返してるうちに、すっかり見慣れない街道に差し掛かっていた。
と、不意に春霞は走るのをやめ自転車から降り、くるりとこちらを振り向き言った。
「ここ、ココだよ真緒くん!麻理子ちゃんの家っ!」
ボクも自転車を降り、適当な所に置く。そして、春霞と共に麻理子の家を見上げた。
特に何か変わったとこがあるわけでもない、ごく普通の二階建ての一軒家だ。
これが麻理子の家。そして明日、麻理子の家ではなくなる家。
家を囲むブロック塀には『沖田』の表札が張ってあるが、明日には取り払われ、やがてまた別の名前が取り付けられるのだ。
この家とはまだ初対面なのに、なぜだかとても感慨深い。
……
「真緒くん、なにボーっとしてるのさ。インターフォン押したげるから来なよ」
春霞はガムをぽっと膨らまし、そのまま敷地の中へ入っていった。
ボクも続いて入っていくと、途端に胸の熱さが大きくなっていく。
春霞の指が、ゆっくりインターフォンに押し込まれた。こもった電子音が鳴り響く。
そのまましばらく待つも、音沙汰がなく、誰も出てこない。
「……っかしいなあ、誰も出ないや。電気ついてんのにね」
と、もう一度春霞がインターフォンに指を押し込もうとした、その時、ドアが開いた。

ドアの中からは麻理子が出て来た。

昼見たときと比べると、少し目の回りと鼻が赤く腫れてるようにみえる。
おそらく今まで泣き散らしていたのだろう。ボクのせいなんだと思うと、心が痛む。
しかし、春霞はそれをまったく意に介してないように元気な声で喋り始めた。
「やっほー麻理子ちゃーん」
「あ、春霞……と……」
麻理子の腫れた目が、ボクを捉え認識する。ボクは咄嗟に俯いた。
「真緒……」
麻理子は、驚いたように口を半開きにしている。胸が痛くなる。


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