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パルティータ
【SM 官能小説】

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パルティータ-12

夢の中で女は誰かの手によって監禁された。ただその場所がどこなのか、どうしてそこに自分がいるのか、そして彼女はその人物の顔も、容姿も夢の記憶として残っていなかった。耳にかかった髪を掻き上げられ、耳朶に乾いた息を吹きかけられ、甘い囁きを聞いた。重ねられた唇のあいだから洩れた男のしっとりと濡れた歯、女を甘く噛みしめる唇、背中の窪みをなぞられ臀部の肉に喰い込むしなやかな指、そして男が纏う重い空気が彼女を閉ざしていく感覚。囚われた彼女は全裸に剥かれ、手錠をされ、監禁されていた。囚われたという意識は彼女の肉体に意味を与え、何かのストーリーを描き出そうともがき、喘いでいた。

はっと眼を覚ましたとき、窓の外はまだ真夜中だった。女は夢の中のその人物のことばかりを考えていた。曖昧な風が、曖昧な記憶をざわつかせ、凍てつかせるような深い夜だった。女の脳裏で遠い記憶の中の出来事の確かさと不確かさが入り混じる。誰かに監禁されるという意識が覚醒し、不透明で曖昧な性を目覚めさせていく。そしてそういう体に自分がなっていることにあらためて女は気がついた……。


 …………

 ふと気がつくとベッドの上で、ワインで微かに酔った人妻が男に寄り添い、彼のペニスを指で弄りまわしていた。彼女の紅色の唇から微かに精液の匂いがした。もしかしたら男は人妻の唇の中で射精をしたかもしれない。でもいつ、どんな風に自分が射精をしたのか彼は覚えていなかった。
 人妻は薄い笑みを浮かべて言った。
「あなたって、別れた奥様とのセックスって覚えているかしら」
 男は首を横に振った。「覚えていそうで、実は何の記憶も残っていません」
「だったら、初めて射精した女性のことはどうかしら」
 男は言った。「初めて射精を意識したのは、二十歳のぼくがある少女を監禁していたときでした」
「少女? 監禁って、どういうことかしら」と人妻は尋ねた。
「ぼくが白樺の林の中にある蒼い沼の畔(ほとり)で見つけた制服の少女です。彼女はおそらく高校生くらいだったと思います」
「あなたはその少女と交わったということかしら」
 男はその言葉を肯定も否定もしなかった。「もしかしたらぼくは彼女をレイプしたかもしれないのです。でも、どうしてそういうことがぼくにできたのか思い出すことができないのです」
「あなたはその少女を監禁したいほど恋していたということかしら」
「違います。逆に彼女を監禁したことで、ぼくは少女に恋するようになったのだと思います。気がついたらぼくは、裸の少女を監禁していたのです。実際、どこに、どういうふうに彼女を監禁したのかはわかりませんが、おそらく自分の意識の中に彼女を監禁したということなのです。そしてその少女が確かにぼくのものだという意識がありました。そしてぼくは彼女をレイプしたかもしれないと思うようになりました。でもそれが、ほんとうに現実の出来事だったのかはわかりません。ただ、ぼくは監禁された少女の中に射精をした感覚だけを覚えているのです」
「それって夢の中の夢精ってことかしら」
人妻はそう言いながら柔らかい彼のものを掌で包み込み、珠玉のふくろを優しく撫でた。
「それが夢だったのか、現実だったのかはわかりません。でも少女がぼくの意識によって監禁されていることは、ぼくが知らない、ぼく自身のほんとうの欲望のストーリーを描かせていたような気がします。だからぼくが現実として彼女を監禁し、レイプすることはありえることなのです」
 そう言いながら男は視線を壁時計に向けた。時計の針は真夜中の二時をさしていた。いつもは夢を見る時間だった。不確かな自分に戸惑っている彼にとって、夢の時間だけが唯一、確かな自分を感じるときだった。
「ただ、ぼくが思うのは、ぼくが少女を監禁することによってぼくは逆に彼女に囚われ、ほんとうは自分がその少女によって監禁されたのではないかと思うようになったことです」
 人妻は男の声にじっと耳を傾けながらもペニスの中に潜んだ彼の記憶の陰影をえぐるように手をよじらせている。彼女の掌で包まれたペニスは皮膚や肉の感覚を失っているというのに、男は性器の奥深いところで何かの記憶が小刻みに収縮を繰り返しているのを感じ取っていた。

人妻は彼の耳元で甘く囁いた。あなたって、わたしを監禁できるかしら…………



(後編へ続く……)


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