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医師テレスポロス
【ファンタジー 官能小説】

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医師テレスポロス-3



それはまだ小さかった頃の事だ。私には四つ上のシトリーという姉がいた。一緒に母親に魔術を習っていた。
母親は厳しく、うまくできなかったり、仕事を怠けようとしたりすると鞭で叩いた。
小さな私は母親の言いつけ通りにせず、よく鞭でうたれた。
父親はいない。相談できる者も、やりすぎだと母親をいさめてくれる者もいなかった。
見かねた姉は、僕をよくかばってくれ、ムチを受けてくれたこともある。
僕に反骨精神があったわけではない。
仕事をなまけ、姉に甘えていただけだ。
母親のことは嫌いだった。それで姉弟でささえあった。いや、姉にもたれかかった。
僕より何でも知っていて、何でもできる、やさしい姉こそが、僕の保護者だった。

――― ある日、母親が町から帰ってこない。
姉と二人、家の中でじっと待っていた。ここは人里離れた所にある一軒家。母親はいつも明るいうちには帰ってきていた。
あんな親でも一応心配になったが、勝手に街へ出ることは禁じられていた。
夕暮れが迫るころ、外が騒がしくなってきた。
ドアが激しく叩かれる。大勢の人の気配がした。
「姉ちゃんどうしよう」顔を見合わす。
ここに人が来ることなんか、今までになかったことだ。
シトリーはそっと立ち上がると、玄関のドアの前で、外の音をうかがい、意を決して開けようとした。
押しても開かない。
そうするうちに今度は窓のあたりで叩く音がする。部屋の中が暗くなっていった。
叩いているんじゃない、窓に木の板を打ち付けているのだ。
きっと玄関もドアを釘で打ち付けられているのだろう。
「姉ちゃんどうしよう」どうしようもなかった。ただしばらく様子を見るだけ。
そのうち、きな臭い匂いがしてきた。ドアの隙間から煙が入ってくる
「家を燃やされてるわ」
「僕達がいるの、知らないんだね」
「きっといるのは分かってると思う。だから出口を塞いで火を付けたのよ」
「早く母さんが帰ってきてくれないかな」
「テレス逆よ。母さんが捕まったから、私たちまで火あぶりされるのよ」
火が隙間から入ってくる。部屋の中はいがらっぽい煙で青くかすんでいた。
姉は椅子を持ち上げると、窓へ向かって投げた。「助けて」叫ぶ。そして、僕にも「同じように叫びなさい」
「助けて」
「2人の声だ」外の人の怒りを込めた声と、笑い声がした。「燃えちまえ」
びっくりした。「姉ちゃん、僕たちがいるのに」
「もういいわ、黙って。私たちはここで焼け死ぬのよ」
「僕いやだよ」
「私も嫌よ。だからいらっしゃい」シトリーは床板をはがすと、僕の手を引いて、その中にはいった。そこには狭い穴があいていた。
「もう、お墓に入っちゃうの」
「これは抜け穴よ」家の裏には、家一軒分ほどの大きな岩が地面に乗っていた。その下を通って、向こうまで穴は続いている。
「穴を出たら林まで、音を立てないで走るのよ。練習じゃないんだから、失敗したら鞭では済まないのよ。いい」
林からふりかえっても、十年ほど住んだ家は見えなかった。
オレンジ色に燃える空のなかに、真っ黒な、岩の形の穴があって、家はそこに飲み込まれていた。
「おいで、振り返ったってしかたない」森の奥へ、手をつないで走った。森の中には僕たちの秘密の家がある。崖に開いた穴の入り口付近が崩れてできた洞穴だ。
狭い入り口は目立たず、姉弟しか知らない。
雨露のしのげる、大きな一部屋くらいの場所だった。
食べ物はおやつくらいしかないが、 この前から、いい獲物が罠にかかっていた。
魔女だ。数日前、意識体になって飛んでいたのを母さんが捕まえたのだ。
その、魔法のかかった瓶の中は透明で、何もいないように見えるが、時々もやのような物が色を変える。
母さんは「森の中に捨てて来なさい」と言った。「出来るだけ深く埋めるのですよ。誰かが蓋を開けたらこの魔女の呪いで私たちは死ぬでしょう」
でも僕たちはそれを秘密の家へ持って行き、棚の上に置いて、捨てたことにした。
母親の言葉にきっと間違いはないのだろう。でも母親の言いつけに従うのがいやだった。
なんとか、この中の魔女を使って、母親から逃れることを夢見た。
しかし母親から逃れられた今、僕たちには何の生活の知識もないことに気がつかされた。
母親が要る。


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