2 いにしえの習わし-1
エルフたちが住まうこの森には人間は許可なく立ち入ることができない。このような閉ざされた社会では、僕たちが通常思い付きもしないような珍しい習慣に出会うこともあるだろう。
そういった習慣のほとんどは時間とともにいつかは失われていくだろう。
僕の本当の仕事は、エルフたちが悠久の営みのなかで育み、継承してきた無形文化が風化してしまう前に記録として保存することだ。
この森には処女検査という古い習わしが今でも残っていて、エルフの女の子たちの体や魂の価値を高める役割を果たしている。
未成年の少女たちは一年に一度、セントラルカセドラルと呼ばれる大きな聖堂に集められる。彼女たちはそこでまず白い儀式用の服を着用させられる。それからひとりずつ検査台に上がり、自身の処女膜に損傷がないことを大人の神官たちの目の前に晒すことになる。
これにより、彼女の体と魂の清らかさが神によって保証されたことになる。
土着宗教の神に少女の純真を提示するという儀式は、僕にとっては特別驚くべきことではなかったが、僕がこの森にきて一番興味深いと思ったのは、こうした検査が抜き打ちでも行われるということだ。
ただ一方では、そのことが多くの女の子たちにとっては精神的な負担となっている。
ユリアが今日ひとりで教会にきたのは、おそらくこのことと無関係ではないだろう。
僕はユリアを執務室に招き入れていた。
彼女を椅子に座らせて、僕はコーヒーを淹れた。僕が淹れたコーヒーを飲み終わった頃には、彼女はだいぶ落ち着いたみたいだった。
それから僕は二つの握り拳を彼女に突き出して、どちらか一方を選ぶように促した。
これは一種の民族的な言語コードのようなもので、この森でしか使われないボディランゲージのようなものだ。僕の故郷ではよく安い手品師が近くの客にどちらの手にコインが握られているのかを選ばせるのだが、僕が今やっている行為自体はそれによく似ている。
しかしこの森においてこれは極めてセクシュアルでデリケートな問いへの回答を相手に要求しているのだ。
ユリアが選んだのは左手の方だった。
左手が示唆するのは女性であり、この場合女性とはユリア自身のことである。
要するに、今回ユリアが僕の元を訪れたのは彼女のオナニーにまつわることと見て間違いないだろう。