1 森の教会とエルフの女の子-1
人間の僕が教会の司祭としてエルフの森に招かれるというのは、異例のことだ。
エルフたちが住んでいるこのウタタネの森の、この小さな教会に赴任したばかりの頃は、僕はちょっと緊張していた。
どうやらそれはこの森のエルフたちにとっても同じだったみたいだ。
子供のエルフたちは人間の僕がよっぽど珍しいらしく、僕に興味を示しているようではあったがあまり近寄ろうとする者は多くはなかった。
そんななか、この森でよそ者の僕と最初に親密になってくれたのが、ユリアだった。
ユリアはエルフ種には珍しい黒髪で、黒い瞳の女の子だ。
年齢は十五か、十六歳くらい。
見た目ではそれくらいだろうか。とても若い。ただし、エルフは長寿の種族だから実際の年齢はわからない。
今日はなぜかユリアはひとりで教会にやってきた。
彼女が広間の扉を開けた時、僕はいつものように建物の奥の執務室で仕事をしていた。
僕は執筆作業に追われていた。誰かが教会にやってきた音がしたので、僕はペンを置いた。そして、壁にかけてある祭服を手に取り、広間に向かうためにドアノブを回して廊下に出ようと足を踏み出した。
僕は驚いた。
ユリアはもう扉の前までやってきていて、危うく扉をぶつけてしまうところだった。
「あっ」
と、声を出したのはユリアの方だった。彼女はそのまま俯いて、黙ってしまった。
この時間帯に人が来ることは滅多にない。今日は平日で、今は昼だ。天窓から白い光が射している。今この教会はとても静かで、僕とユリア以外には他の誰もいなかった。
「どうしたの?」
僕は彼女に問いかけた。
すると、ユリアは急に動揺したように、目を泳がせた。しかし彼女は黙ったまま何も答えず、顔を上げてくれない。
今日のユリアはなにか様子が変だった。
だけど僕にはなんとなく、その理由の察しがついていた。