密・室・羞・慄-3
え?
紗雪は最初、理事長の言っていることがわからなかった。
美しい……って、入学試験の場で、どうしてそんな話が出てくるの?
「そこまで含めて調査を進め、君たちを特待生推薦の対象としたのだ」
紗雪は、ここにいる2人もそうだが、受験に来ていたのが他もみんな女子で、しかも綺麗な子ばかりだったのを思い出した。
まさか募集をひょっとして女の子だけに限ってたの? 推薦基準に「容姿」まで入っていたというの? それで綺麗な子ばかりを探して集めたの?
そんなことを入学試験の選考材料にするって一種の差別で、セクハラじゃないの?
紗雪にはいよいよ、この試験がいかがわしいものに思えてきた。
それとは別に、紗雪はそもそも自分がその対象になっていることが理解できなかった。
彼女は、今まで自分を美人とか、可愛い女の子と認識したことは無きに等しかった。
さすがに引け目を感じるほど不細工とは思っていなかったが、せいぜい十人並み程度と感じていた。友達から可愛いと言われることはあっても、それは女の子同士の社交辞令ぐらいに解していた。家が裕福で存分におしゃれを楽しめる同級生たちと比べるとずっと冴えない、勉強ができることだけが取り柄の女の子。そういう自己認識だった。
もう男の子と付き合っている子も校内でちらほら見かけるのに、紗雪には中学時代を通して異性からそういう声がかかったことは一度も無いから、なおさらそう感じたのかもしれない。
抜群の優等生の彼女は男子生徒たちからは恋愛対象として釣り合いそうもないと完全敬遠されていたが、清楚な美少女として彼女を遠目に見つつ絶賛する隠れファンの男は少なくなかったというのが真相だった。だが、それは本人はまるで与り知らぬことだった。
「わ、私はそんな……」
紗雪は遠慮がちに言葉を返そうとして詰まった。
理真もまたこの和天高校の特待生入試の推薦を受けた時から、かねてより気になることがあった。
彼女は確かに優等生ながら家庭環境は経済的に恵まれないという、三田村理事長の説明にあったような境遇に置かれた中学生だ。だが彼女の通う南豊中学には、それにもっと見合う生徒がいる。
隣のクラスの山崎光穂。小学生時代に同じクラスだったこともあり、今もそこそこ仲が良い友達のひとりだ。特に勉強に関わる知的な話題では、まともに話が合うのはお互いしかいない。
光穂の成績は理真より上回っているぐらいだし、しかも家庭の経済事情は理真以上に厳しいことも知っている。一人っ子の理真に対して光穂には妹がいるから、なおさらだ。
品行もよほど光穂の方が模範的で、先生たちからの覚えもよいはずだった。それなら、どうして光穂を差し置いて自分が選ばれたのだろう。それが不可解だった。
それでも、特待生入学のチャンスを棒に振る気にはなれず、彼女は光穂に権利を譲ろうなどとは申し出なかったばかりか、このことをずっと光穂には内緒にしていた。それに友達を裏切るような後ろめたさも感じていたところだった。
その決定的な要因が「容姿」にあったことなど、今の今まで思いも及ばぬことだった。紗雪と違って理真は、自分の美貌についての自覚はそれなりにある。男の子から容姿目当てで告白されたこともあるし、実はそれにとどまらないことも経験している。それに対して光穂は可愛いと言ったらお世辞になるような、少なくとも十人並みより確実に下回る顔立ちだ。それは友達の理真としても認めざるを得ないことだった。
理真もまた、この入試の理不尽さといかがわしさを、ひしひしと痛感させられていた。
それでこんな辱めを忍ぶ羽目になっていることを思うと、それは友を裏切った罰が当たったような気もして、彼女も悔恨を覚えずにはいられない。
それぞれに戸惑っている少女たちに対して、三田村は目配せをしつつ告げる。
「ということで君たちの美しさを、今ここで存分に確かめさせてもらうとしよう。それが最終段階だ」
それが何を意味するのか、紗雪もまだわかっていない。ただこれから待ち受けるものが今まで以上に理不尽なものになるだろうと予感できたぐらいだ。
「それ、どういうことでしょうか?」
不安に駆られたのか、紗雪より先に理真が尋ねた。だが三田村から返ってきたのは、彼女らを唖然とさせるような一言だった。
「一糸まとわぬ姿で、ということだ」