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ロスト・マイ
【ファンタジー 官能小説】

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ロスト・マイ-10

クロは口の中で何かブツブツつぶやいています。まるで呪文のようです。
「君は魔女って知ってるかい」突拍子もないことを言い出しました。
「お話にでてくるやつでしょ。魔女だと裁判にかけられて火あぶりにされるの」
「昔の魔女裁判は、確かにそうだね。だけど拷問をした後で、魔女だったから問題はないというのはおかしい。もしも魔女でなかったら。一人の娘に消えない傷を残してしまうことの倫理はどうなるんだ。マイ、君は魔女なのか」
「そうだな、魔女だったらよかったのにと思うことはあるよ」
「そんなこと言ったら、火あぶりにされるよ。それでもいいのかい」
「熱いのは嫌い」
「そうだね。忘れてくれ」話を打ち切ろうとしました。
「何かよくわかんないけど、あたしは何度も夢の中でおばさんと会っていろんな話はしたよ。
身近な出来事や悩み、何でも話したよ。魔法の話は、どうかな。よくわかんない。
ああ、その時おまじないは教えてくれたよ。何か怖いことがあった時唱えなさいって、前に唱えたやつ。それくらいかな。
これでいい? 何でも話すよ。聞いてくれたらよかったのに」
「そうやって図書館長としゃべってたのはわかっている」
「その人は知らない、本なんか読まないし、図書館なんか行ったこともないし」
「ヒメさんは何をしてくれた」
「その名前は知ってる。夢の中のおばさんだ」
「知らないのか、図書館長のヒメさんだよ」
クロが説明してくれます。昔からある『図書館』という勢力と、新しい『神の系譜』という勢力のどちらかにほとんどの魔女たちは属していました。
そのおばさんは、この地域の魔女の元締めのような人でした。
「知るわけないでしょ。だって、夢だよ」
「でも喋ってたんだろう」
「夢でしゃべるなんて、みんなしてるんじゃないの?」
「そうだね、そうかもしれない。なんでもあり得る、それが夢だからね」なんだかわかりませんが、追求をやめたようです。
「この前の誕生会のお礼だよ」合成皮革のギターケースを差し出します。
「あっ、いいの」
「おれの使い古しだから」
「ありがと」ちょうどよかったのです。家のギターを学校に持って行くときにほしかったのですが、優先順位が低くて、まだ買えずにいたのです。
それにソフトケースの方が軽くて便利です。
受け取ると、ずしっと重みがきます。
「なにこれ」 慌ててチャックを開けます。中にはギターが入っていました。
「何これ?」それも。有名な工房のものです。
「だから、使い古しで悪いんだけど。俺がギターもやっていた頃のものだよ。置きっぱなしだったんだ。すごくいいやつではないけど、愛着はあるんだ。君が使ってくれるとギターも喜ぶよ」
あたしはただ黙って、クロに飛びつきました。それから顔中にキスをしました。
クロはそれを受け止めてくれました。

―――――――――――――報告書
宛先 トドウ
内容 マイ・********* の魔術的背景に関する調査 32

〇概要
1 魔法をおこなったという意識の欠如
2 呪文の作成は過去の曲の歌詞と確認
3 対象との接触を継続
問い合わせ: 立ち入った関係となる事への再要請

〇別項
4 魔術確認のための少年への処置
 1 現在も行方不明

〇詳細
*********
以上 全2枚―――――――――――――


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