恥・密・暴・露-2
な、なにこれ……。こんなことまで訊かれるの？
清純な紗雪には、もちろんそんなものは無い。中学生のうちから性交渉に及ぶなんて考えたこともないし、そもそも男の子との交際経験もない。それどころか初恋の感情すらまだ抱いたことがない彼女なのだ。
だから「なし」と答えればいいだけの話とはいえ、こんな露骨なことを中学生に、しかも入試の場で尋ねるなんて非常識で、セクハラ以外の何ものでもない。もし本当にそういう経験のある子だったら、どう答えるのだろう……ついそんなことまで思いをめぐらせてしまう。
記入台の隣には奈々美もいて、見られると恥ずかしい気がしたので、紗雪はそちらも気にして記入内容をからだと左腕で隠すようにしながら、震える右手で用紙を埋めていった。もちろん奈々美が書いているのを覗き見たりはしない。
だが彼女は、第二次性徴の発現時期を尋ねる項目の一つを、空欄にしておくしかなかった。
記入作業は3人ともおおむね同時に完了し、福部が順に回収していく。席に戻ると、他の担当者にも見えるように3枚の用紙を机の上に広げ、それぞれに目を通していった。高田がその内容を手元のPCに入力しはじめている。
「久保田さん……身長155cm、B85W58H84、ですね」
土屋がやおら記入内容を読み上げるのを聞いて、当の奈々美はもちろん、残る紗雪も理真も慌てふためいた。まさか他の受験者たちにも聞こえるように読まれるなどとは思いもよらなかったのだ。
いくら同性しかいないこの場とはいえ、自分の一番プライベートでセンシティブな情報をこんなふうに公にされるなど、思春期の少女にとっては全身が炎上しそうなほど恥ずかしいことだ。この後で紗雪も、同じようにされるのは間違いない。
「そ、そんな……読み上げるなんて……秘密厳守とおっしゃったじゃないですか！」
奈々美は恥ずかしさに耐えかねて、抗議の声をあげる。
「外部には出さないと言いました。部外者が誰も聞いていないここで読む分には、何も問題はないでしょう」
紗雪にも無茶苦茶な理屈に思えたが、こんなふうにして福部が抗議をあっさりと却下した。
この後自分のことも同じように言われる。せめてボディスペックだけで済んでくれれば……と紗雪は祈ったが、土屋はさらに続けた。
「発毛は小学6年生の6月、初潮は8月ですね」
他の回答項目のいくつかに続いて、いっそう恥ずかしいことを他の面々にも聞こえるように言われ、奈々美は恥じらう顔を手で覆った。ブラを着けた時期は省略されたようだが、何も救いではない。
「異性との交際経験はあるようですが……性体験は、もちろん無しですね」
「いい加減に、やめてください！」
淡々と記入事項を読む福部に対して、これから尋ねられるだろう理真も我慢できなくなり、顔を真っ赤にして抗議した。下手に異議を申し立てて不合格にされたら何もかも台無しになるとは知りつつも、それでも言わずにはいられなくなった。
「そういうのは、中学生なら別に当たり前のことでしょ。言われて恥ずかしいことなんてあるかしら？」
次はどちらの番かとドキドキしたが、まずは理真の方だった。
「平見理真さん……身長163cm, B82W59H82」
読み上げられたのは、背も高く、紗雪に比べても大人びて健康的なからだつきを見せる彼女だけある数値だった。
「胸はCカップというところでしょうか」
こんなことまで言われて、理真は赤らめた顔を俯かせた。用紙にはブラジャーのカップサイズを記入する欄などなかった。スリーサイズの数値から推定したのかもしれないが、あからさまに言い立てられるのは思春期の女の子には堪える。並か、この年齢からすればやや大きめ程度で、小さすぎでも大きすぎでも、何か引け目を感じるようなサイズではないとしても、変わらなかった。
「初潮は小学6年の2月、発毛は中1の6月ということは、初潮の後でしたか。13歳になってからですね」
今の大人っぽい雰囲気の割には、そんなに早熟ではなかったようだ。それとともに言った土屋の目が下腹部に注がれるのを感じ、思わず片手でそこを隠すようにする理真。
「もちろん性体験なんてありませんね」
「は、はい……」
それを聞いたとき、理真はいくらか動揺した表情を見せたように紗雪には思えたが、気のせいかもしれない。