藁の匂いに惹かれて第1話-2
目指す小屋はすぐに分かった。
周囲は荒野に囲まれ、動物の気配さえ感じられない。
小屋自体かなり古びた作りになっており、古いコンクリートの壁と木造の屋根を見ればかなりの年代物だということが分かる。
錆びかけた鉄製ドアの前に立ち、恐る恐るノックする。
―――――――コン コン ・・・
「ウィンセント、いる?・・・・ティファよ」
小屋の内側からは返事がない。
ティファは軽くため息をつくと無意識にドアノブに手をかけ、恐る恐るゆっくりと回してみる。
「・・・あ・・・・」
軽い驚きの声が上げてしまったティファは、ここでドアに鍵がかかっていないことを悟るのだった。
――――――ギィィィ・・・・
独特の不協和音を響かせながら、ドアがゆっくりと開いていく。
ティファはそのまま小屋の中に足を踏み入れると薄暗い内部に目を向けた。
小屋の中はティファが予想していたものよりも広かった。
もっとも部屋の中にあるものは先程から彼女の鼻を擽る香りの大元、山と積まれた藁の束くらいのものであったが。おまけのような感じでつけられている小さな窓から漏れる暗い光が それをぼんやりとティファの前に晒け出していた。
その藁の中に埋もれるようにして横になっている人影が1つ。
現在の小屋の居住者であるウィンセントその人であった。目を瞑ってはいるものの、本当に眠っているのかは判然としない。
ただその顔は透き通るくらいにすっきりした透明さを持ち、見下ろすティファでさえドキリとしてしまう妖しさを醸し出している。
そこから長い黒髪が無造作に藁の上に散らばっている。
いつもは身に付けている赤装束は脱いでおり、黒いタンクトップ風のシャツだけ着て腕を組んでいた。
( ・・・・・・ )
内心胸の鼓動が乱れるのを自覚しつつ、ティファは足音を忍ばせてウィンセントの頭の側に近づいていく。
彼の眠りを妨げないように、ゆっくりと手にしたバスケットを彼の傍らに置いた。
その瞬間、
「 !!! 」
ティファの呼吸が一瞬止まり、その視線がウィンセントの顔に釘付けになる。
そう、いつのまにか瞼を上げてティファ自身を見上げてくるウィンセントの顔に――――――――