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LOOSE
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LOOSEV〜FINAL〜-2

人より少し不器用だから一見、冷たくて何もかも拒絶しているように見えるけれど、瞳の奥の優しさを私は知ってる。
今日の出来事を楽しそうに笑って話すその仕草も、煙草を持つ繊細な指先も、私を優しく包み込む筋肉質なその腕も…ありのままの悠を私は好きになった。

そんな悠に…私は今素直に会いたい。

「じゃぁ今日行ってきなよ。」
『…えっ』
俯いていた顔をあげて雪乃の顔を見ると、そこには優しい眼差しがあった。
「後先考えて不安になる菜々子の気持ちすごいわかるよ。うん。だって人だもん。色んな不安抱えながら先の事とか回りの事考えて、今どうするべきか悩むのって皆してる事だよ。特にそれが恋愛事になると色んな感情が絡んでくるからね。おまけに菜々子は初心者だし。」
そう言ってクスッと雪乃は笑った。
「後先の事とか、回りの人の事とか考える事はすごく大切な事だよ。でもそんな事ばかり考え過ぎて身動きできなくなってる菜々子はただの馬鹿じゃん。もっと簡単に素直に考えてみなよ?さっき悠君に会いたいって言ったよね。じゃぁ会いに行ったら?難しく考えないで、先の事考え過ぎて身動きできない位だったら今したい事をした方がいいよ。」
『雪乃…』
「先の事はそれからでいいよ。また困った事があったらあたしがいるじゃん。」

にっこり笑った親友の言葉の一つ一つが私の細部まで染み渡って、雪乃が言っていた通り身動きできないでいた私をほんの少し自由にしてくれた気がした。
「あれ。あたし何か偉そうに言い過ぎちゃったかな?」
いたずらっこのように雪乃は笑って言った。
『ううん。全然。何か、もやもやが晴れた感じがするよ。…ありがとう。』
「どういたしましてっ!実を言うとね、こんな言い方すると菜々子には悪いけどあたしは嬉しいんだよね。」
『何が?』
「菜々子が人を好きになった事が。」
『え?…あぁ。』
「高校の時から菜々子と一緒にいるけど、本気で人を好きになってこうやって悩んでるトコ見たことないからね。…あたしは上辺だけの付き合いをしてる菜々子は本当は寂しいんじゃないかなってずっと心配だった。でも悠君と出会って菜々子は変わったね!あたし悠君にも感謝したい位だよ。」
思わぬ雪乃の言葉に思わず言葉を失ってしまった。
私の事をここまで真剣に考えてくれていた事に思わず涙があふれた。
『…雪乃』
「やぁだ!泣かないでよ〜!もぅ辛気臭いっ!ほらっ!そろそろ行きなっ!」

笑って背中を押されカフェテリアを出た。
大学の前で雪乃と別れ、悠の家の方向に向かう。
秋晴れの空には雲一つなく、太陽の光が透き通るように私にふりそそぎ、それはとても心地よく感じた。
昨日まで暗く重かった足取りが今は嘘のように軽く感じる。
…雪乃に感謝。
悠に会ったらこの晴々とした気持ちがまた陰ってしまうかもしれない。
…でもそれでもいい。
それでも悠に私は会いたい。
雪乃の言った通り、私は私が今一番したい事をするんだ。

いつもの通い慣れた道を歩く。悠の家に近づくにつれて少し緊張してきた。

悠のアパートに着くと深呼吸をして自分を落ち着かせる。
インターホンを鳴らす指先が自然と震えた。
しかし何度鳴らしても悠は出ては来なかった。
…寝てるのかな。
ドアノブに手をかけると鍵はあいていて悠の不用心さに菜々子は苦笑した。

いつもの狭いワンルーム。
見慣れた部屋。
悠の匂い。

悠は疲れているのか、菜々子が入ってきた事にも気付かず無防備に眠っていた。
…あぁ、悠だ。
当たり前の事だけれど、いつもと変わりない悠にホッとする自分がいた。
あまりにも熟睡している悠と、ミシン台の上に散乱している仕事用具を見ると、昨日も遅くまで仕事をしていたんだろう。
起こすのは気の毒な気がして、菜々子はキッチンに行きコーヒーを煎れ、お気に入りの音楽を静かに流した。


「…来てたの?」
しばらくして、眠たそうに目をこすりながら悠が目覚めた。
『うん…さっき』
「ごめん、爆睡してた。」
大きく伸びをしながらのそのそと煙草に火をつける。
『てゆうか、鍵あけっぱなしで寝るのやめなよ。』
「あ、ごめん。あいてた?」
『うん。』
「次から気ぃつけるわ。」
煙草を吸う悠のそばに私はいつもの場所に座っている。
なんだ。
普通にできるじゃない。

今まであんなに心配していた事が馬鹿らしく思える程、悠と自然に過ごせている自分がいて菜々子は可笑しくなった。


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