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ある熟女の日々
【熟女/人妻 官能小説】

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ステーキ-1

 権堂と今月3度目の逢瀬を愉しんで、一緒に旅館の部屋の湯船に浸かっている。最近は、汗をかくだけでなく、胃液や体液で身体を汚すから、入浴して髪まで洗うのがいつもの流れになっている。長湯ができるように湯の温度はぬるめに設定されている。

 「今日もたっぷり愉しませてもらいました。食事して帰りましょうか。いつもの店でよろしいですか?」
 「いつもごちそうになってばかりですみません…」
 「何をおっしゃいますやら。『ごちそう』になっているのはこちらの方ですよ。毎回、極上のお肉をね」

 帳場を通ると女将が見送りに来る。

 「いつもありがとうございます」
 「女将、また来るよ」
 「奥様もまたお越しくださいね」
 「ありがとうございます」

 女将の雰囲気や物腰は高級温泉旅館のようだけれど、ここは歓楽街のはずれの連れ込み旅館。すっかり顔なじみになってしまったようで気恥ずかしい。

 旅館を出て権堂の車が停めてあるパーキングに向かう。最近は、毎回ではないけれど、郊外に車を走らせて食事をしてから帰宅することが多い。家の前まで送ってもらうこともできるのだろうが、そこはどこにあるかわからない人目に気を遣って、いつも最寄り駅からいくつか離れた駅のそばで、送ってもらって来たかのように、後も振り向かずに車からさっと降りて、電車を使っている。

 車に乗って権堂にきいてみる。

 「あの…、旅館の女将さんは、わたしのことを権堂さんの奥さんだと思っていらっしゃるのでしょうか?」
 「ははは。そうだったらボクもうれしいですけど、そこは彼女もそうじゃないことはわかっていますよ」
 「じゃあ、わたしが人妻で権堂さんとお逢いしているっていうことも…」
 「まあ、そうですね。でも、なんの心配もありませんよ。そういう旅館の女将なんですから。みんなちゃんと心得ていますよ…何かに気になることでも?」
 「いえ、決してそういうことでは」

 もちろん人妻でありながら権藤と何度も密会して、今では常連客として扱われていることへの後ろめたさもあるが、会うたびに『奥様』と呼ばれていることが、もし権堂の妻として認識されているのだとしたら、正直な心情としては少しうれしかった…のである。

 「まあ、ボクにとっては貴女はもはや『心の妻』ですから」
 「まあ、そんな…」

 冗談とはわかっていても、女心をくすぐられるような気分になっている。

 「心の妻であり、カラダの妻である…そんな感じです。夫のわがままを何でも受け容れてくれて…」
 「いえ、『わがまま』だなんて…」

 カラダだけの関係…で、お互い自分の家庭を壊すようなことは少しも考えてはいないけれど、わたしにとって『カラダの夫』はずっと権堂だったから、権堂から『カラダの妻』と呼ばれたことに幸福感すら覚えてしまう。

 車は30分ほど走って高級レストランに着くと個室に通される。美味しいステーキを食べながら、味覚だけでなく、空っぽになった胃の壁から、お肉のエキスが沁み込んでいく感覚を味わっている。

 「いつもお腹を空かせてしまってすみませんね。ボクも最近は空腹のままでいることが多いんですよ。こうして貴女と食べるステーキがすごく美味しいものですから」

 この男にはいつも心情を読み取られているような気持になる。

 「あの…、先日お話のあった『交歓会』は…」
 「ああ、抽選はまだ先なので…。あと1か月くらいかな。結果が判ったらすぐにご連絡しますよ。…うれしいなぁ、気にしていただいているなんて。こんなことを申し上げてはおこがましいのですが、ボクの『わがまま』を受け容れてくれるたびに貴女の魅力がどんどん高まっていて…」
 「そんなことありません…」
 「いえいえ。これはボクの実感をお話しているだけなんです。交歓会に登録する貴女のプロフィールに記載できるプレイ…もうイラマチオも大丈夫ですよね?」
 「恥ずかしいですけど、毎回、意識が飛んでしまうくらいにしていただいて…。なんていうか、すごく…」
 「『満足感』、『達成感』、『充実感』、『爽快感』…」

 権藤が口にフォークに刺した肉を運びながら言葉を並べていく。

 「はい…。全部、味わわせていただいているような気がしています」
 「ボク自身も改めて一から学ばせてもらっているような気持です。まだまだ、未知の世界が広がっていますからね。貴女と一緒にいろいろ見つけていきたいと思っています」
 「…よろしくお願いします」

 ナイフとフォークを手にしたまま頭を下げるわたし。

 「さあ、熱いうちにどんどん食べましょう」

 権堂と同じグラムのステーキを平らげてしまった。再び車に乗るとついウトウトしてしまう。

 「眠くなりましたね。ちょっと休んでいきますか」

 車はいつもの経路を外れていく。人気のない公園の駐車場に車が停まる。

 「貴女を乗せて絶対に居眠り運転で事故など起こせないですからね」

 高台の駐車場からは眼下夕暮れ時の街の明かりが広がっている。権堂がシートを倒す。わたしもシートを倒す。さっきの強い眠気は峠を過ぎたようだが、このまま横になっていればすぐに眠れそうではある。

 「『性欲』、『食欲』、『睡眠欲』と言いますからね(笑)。そうだ、抽選の結果はこれからなんですが、予行練習じゃないですけど、よかったら今度、スワッピングしてみませんか?」

 仰向けになった権堂が呟く。

 「…スワッピング」
 「ええ。ボクに会のことを教えてくれた先輩でしてね。とても品のよいご夫婦なんですよ。『交歓会』にもエントリーしています。是非、ボクの心とカラダの妻を紹介したいと思いまして…」

 『交歓会』へ参加できるための抽選がまだならば、いよいよ八幡さまにお願いに行こうかしら。権堂と初めてのカーセックスをしながらそんなことを思う。


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