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こいびとは小学2年生
【ロリ 官能小説】

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歌うたいのバラッド-5


 しのちゃんがリモコンをテーブルの上で俺の前にずらしながら言う。歌わないもなにもしのちゃんがマイク独占してるからなあ。まあいいや、よし、俺の渾身の優里を聴かせてやろう。アイスコーヒーで喉を潤して、サビがハイトーンになる「ドライフラワー」に備える。モニターの画面に曲目が出て、アコギのイントロが始まる。歌い始めると同時に画面上部に予約が入った曲が次々にテロップで表示される。正面のしのちゃんは俺の歌なんか聴いちゃいない体でリモコンをスタイラスペンでぽんぽんタッチしている。ああ、やっぱ大人の別れを歌ったバラードは小学2年生には響かねえか。
 サビの高音をギリギリ外さずに歌い終えると、しのちゃんが一応ぱちぱち、と拍手してくれた。でも右手には早々にマイクを握り、予約の一曲目、「パプリカ」の歌い出しのタイミングをはかっている。やれやれ、俺の役割はしのちゃんのために新しいメロンソーダフロートをオーダーするくらいしかないな。
 Foorinのほうのバージョンはよく知らないけど、ビニールのソファーから立ち上がって歌うしのちゃんの振りはどこかで見たことがあるような気がする。らるらりら、でハイタッチを求めてきたしのちゃんの左手が汗でしっとりと湿っている。メロンソーダフロートがこぼれないようにグラスをテーブルの真ん中あたりにずらし、そのテーブルに顎ひじをついて、歌うしのちゃんをぼんやり眺める。かわいい。ワイヤレスマイクに隠れてしまいそうな小さな顔も、汗ばんだおでこに張り付いた前髪も、腕を伸ばしたり縮めたりしながら結んだり開いたりする手のひらも、どこかまだ舌足らずな歌声も、そのすべてがかわいい。中学から使っていて、どういうわけか今でも俺の部屋のカラーボックスに転がっているカバーが赤い国語辞典によると、「かわいい」とは「小さくて頼りない点に好感を抱き大切に扱いたいと思うこと」「自分より立場が弱い相手に対して保護の手を差し伸べて望ましい状態へ持っていきたいと思うこと」のふたつの意味を有するらしい。俺がしのちゃんに抱く「かわいい」は、まさにこのふたつの意味を両方含んでいるのだろう。大人が子供に向ける愛情と男が女に向ける愛情がグラスの中のメロンソーダとアイスクリームのように溶け合う、それがしのちゃんに向ける「かわいい」という感情だ。
 Foorinから日向坂、雨宮天、おどるポンポコリン(B.B.クイーンズじゃなくてE-girlsのほうだけど)、そしてゆずの「マスカット」でしのちゃんのテンションが最高潮になってキレッキレのスカッとダンスを踊っている最中にインターホンが鳴った。

「しのちゃん、次がラスト一曲だよ」

 全力ダンスを踊り終え、ソファーにぺたん、と座って満足気なしのちゃんが吐く乱れた呼吸のメロンソーダの香りが混じった息臭を嗅ぎながらうながす。

「うーん、あたし、もう、大丈夫。お兄ちゃん歌って」

 そう言ってマイクを俺にひょい、と突き出す。よし、じゃあ、ラストは俺の勝負曲で締めよう。リモコンで斉藤和義の「歌うたいのバラッド」を選曲する。

「しのちゃんのために、歌うからね」

 そう言って息を整える。画面にライブ会場のステージにセミアコを抱えて立っているせっちゃんの姿が映し出される。おお、生音バージョンか気合入るぜ。二行目の歌詞に合わせて途中から目を閉じる。しのちゃんとのこれまでのことや、きっとこのあとも待っている楽しいことや幸せなことを思いながらフレーズを歌う。サビでちょっとキーが上がるから外さないように気をつけて、最後の歌詞、「愛してる」に情感を込める。
 ふっ、と、目を開くと、テーブルの向こうのしのちゃんの姿がない、あれ。腰を浮かしかけた俺の、画面を斜めに向いた背中に暖かい温もりがもたれかかる。いつの間にか俺の隣に移動していたしのちゃんが身体を俺にあずけている。うつむきがちの表情は見えない。しのちゃん、まだ小学2年生なのに、この歌が言いたいこと、俺が歌いたい気持ち、理解してくれたんだろうか。
 俺は左手をしのちゃんの肩に回し、その細い8歳の身体を抱き寄せる。力を抜いたしのちゃんの身体が俺の身体に密着する。しのちゃんの、俺の大好きな「こいびと」の身体を抱きしめながら、愛する人へのぶっきらぼうで、でも精一杯の想いを伝えるバラッドを歌う。大好きな「こいびと」に直接歌いかけるラブソング。斉藤和義、せっちゃん、サンキュー。この歌を、リアルに「こいびと」のために歌うときが来るとは。おんなじことを思ってるやつは全国にいっくらでもいるんだろうけど、この曲は今まさに俺としのちゃんのためにある曲だ。
 アウトロのストリングスがフェイドアウトしていく。狭いカラオケルームに静寂が戻る。いや、かすかなエアコンの運転音はする。いや、ちょっと待て。これ、エアコンの音じゃねえな。まさか。


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