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花屑(はなくず)
【SM 官能小説】

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花屑(はなくず)-11

 大きな鏡に写った裸の女と男。女はわたしであってわたしでないような顔をしている。そして立ちすくんでいる女の熟れきった肉の臀(しり)に顔を寄せるように跪いた裸の男は倉橋であって彼ではない。でも、わたしたちは確かに鏡の中にいるような気がした。そこにはふたりの男女の記憶の像が写っていた。
男は跪いたまま女の臀に手を添え、唇をゆっくりと近づけてくる。そして男の唇が女の臀肌に触れたとき、まるで自分が触れられたようにわたしは子宮に続く肉襞の奥に微かな震えを感じ、甘酸っぱい切なさを感じた。それは間違いなくあの青年像と裸婦像の再現にほかならなかった。 
女の臀に男の唇が烈しい愛撫を始める。わたしは鏡の中の女に自分を投影したように喘ぐ。男の指が尻肉に喰い込み、湿りけを帯びた男の唇が皮膚に吸いつき、獰猛に這いまわる。わたしは自分のお尻が愛撫されているような錯覚に陥り、咽喉の奥から絞るような声をしたたらせる。
臀部の割れ目に男の顔が深く埋まり、舌がすぼまりに吸いつく。ピチャピチャと卑猥な音がして、臀の蕾をまさぐるように濡れきった男の舌の蠢きがわたしの中に忍び込んでくる。男の顔は女の臀から離れない。女の喘ぎがわたしの喘ぎとなり、獣じみた嗚咽となってほとばしる。その瞬間、わたしは鏡面に吸い込まれ、身体全体が鏡面の中に閉じ込められ、身動きができなくなる。わたしは顔を失い、そこにはわたしの肉欲と渇望だけがまるで氷の結晶のように凍結していく………。


 ふと気がつくと、窓の外の暗闇の中で、はらはらと花びらが散り落ちていた。部屋にある姿見の鏡面は仄かな灯りだけを澱ませている。そこには何も映ってはいなかった。
倉橋はベッドの上で体を仰向けに横たえ、わたしは彼に寄り添うように身体を重ねていた。夢を見ていたようだと倉橋が小さくつぶやいた。いったいどれだけの時間がたったのかわからない。ふたりしてまるで同じ夢を見ていたようだった。
彼の下半身のものがわずかに伸びあがっている。わたしはベッドの上で体を起こし、倉橋の股間のものに指を添える。目の前にした彼のものは想像していた以上に男のものの形をなし、老いた男のものとは思えない、まるでその部分だけが生まれたままの幼虫のような皮膚をしている。まばらな陰毛は枯草のように乾いているのに、包皮はすべすべしていて湿り気を含んでいる。生涯一度として女性を知らない男性器がこんなものであることにわたしは不思議な感覚をいだいた。
わたしは彼のものに顔を近づけ、性器に唇を触れる。唇をすぼめながらわずかに被った包皮から肉身を誘い出し、薄桃色の亀頭を撫でるように唇ではさむ。
倉橋がじっとわたしを見ていた。そのまなざしに、わたしは遠い記憶をたどるような底知れない深みを感じた。
柔らかく、脆さを感じる肉身をこすりあげるように唇に含んでいく。唇に肉芯の微かな脈動を感じたとき、彼の肉体に残っている呼吸と微熱が舌に流れていく。わたしは少しずつ滲み出る唾液をまぶしながらゆっくりと唇を上下させる。そして薄く開いた彼の唇から切なげな嗚咽が洩れ、腰がわずかに浮き上がったとき、彼はわたしの口の中で静かに射精をした………。




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