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銀の羊の数え歌
【純愛 恋愛小説】

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銀の羊の数え歌−13−-2

そういった一つ一つを思い出す度に、言葉には出来ないせつなさが、痛いほど僕の胸を締め付けつけるのだった。そして琴菜の姿が瞼の裏でちらつく度に、彼女はどうなんだろうと考えたりもした。僕のように、あの幸せだった日々を少しでも思い返したりしているのだろうか。
「それでお前、どうするんだ」
真壁の声に、自分が初めてうつむいていたことに気がついて、慌てて顔をあげる。
「チャーハン?もらうって言っただろ」
「ばぁか」
真壁は、空になった僕のティーカップにミルクティーのお代わりを注ぐと、横目でこっちを見ながら苦笑した。
「亘理のことだよ」
一瞬、言葉に詰まってから、僕はため息を吐き出すように早口で言った。
「どうしようもないよ。別れたんだから」
「ま、そりゃそうだな」
さらりと言ってのけると、真壁はふわふわと湯気の立つチャーハンを紅茶の隣りにおいた。エビが多く入ったシーフードチャーハンだ。そういえば、琴菜がよく食べていたなと思いかけて、きつく目をとじる。どんなに気をつけていても、ちょっとしたことでスルリとあいつが僕の中に入ってくるようだった。だいたい、琴菜のことを考えないようにしているあたりから、すでに彼女を意識しているに他ならないのだ。四年の付き合いというのは、半端じゃないんだな、とつくづく思う。
「あいつ、最近ここにきてる?」
僕はチャーハンを口に運びながらきいた。
真壁は自分の分の紅茶もいれながら、
「きてないよ。この間、携帯に電話はきたけど」
と言った。
「泣いてたぜ。別れたって」
泣かれても困る。別れを切り出したのは、琴菜の方じゃないか。僕は黙ったまま、口の中にあるものを紅茶で流し込んだ。
そんな僕をまじまじを見ながら、真壁はティーカップ片手に呟いた。
「でもなぁ、まさかお前らが別れるとはな。ちょっと、いや、かなり意外だったぜ。てっきりこのまま結婚するのかと思ったのに」
思わず苦笑いがもれた。ヤツが言ったことは、そっくりそのまま僕が思ったことだった。 「でもさ、今回のことで分かったよ。別れる時っていうのは、それまでの過程ってあまり関係ないんだなってさ」
残りの紅茶を飲み干して僕は言った。
真壁はつりあがった眉をよせると、
「なにが?」
と言った。
「つまりさ、四年も付き合ってきたとしても、やっぱり大切なのは『今』なわけで、なんていうかな俺はちょっと油断していたってことだよ」
柊の入院している病院へ向かった僕は、久しぶりに彼女と逢うことが出来た。ゆっくりと、けれど確実に僕らの最終章が近づいている。

赤茶けたレンガに敷き詰められたポプラの並木道から、突き当たりを右に折れ、大きな車道をわたってそこから今度は小さな路地へ入っていく。その左手に、柊由良の入院している病院がある。僕の家から、徒歩でせいぜい十五分程度の距離だ。
日曜の朝。
僕は畑野さんとの約束どおり、柊由良の見舞にきたのだった。外は長袖のTシャツ一枚にジーンズでも十分なほど暖かかったし、久しぶりに散歩もしてみたい気分だったので、ポケットに両手を突っ込んだまま、ここまでぶらぶらと歩いてきた。
途中、手ぶらじゃなんだからとケーキ屋によってチーズケーキを買った。以前、柊由良が好物だと言っていたのを覚えていたのだ。
ひらいた自動ドアから、滑り込むように中へ入り靴を脱いでいると、背中の方から、
「牧野君」
と聞き覚えのある声がした。


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