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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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ザイフェルトの修行と厄祓い(前編)-7

「ふふふ、テスティーノとザイフェルトが、何を具体的に思い浮かべているのか少し気になるところだが」

ストラウク伯爵は前置きでそう言ってから、群れをつくる山犬で人の群れを喩えた。群れには統率する一頭の犬がいて、群れの中で一番強く他の群れと戦う。その強い犬の子を群れに残すために、牝犬が何頭も他の牡犬には見向きもせず、統率する牡犬とだけ交わる。

「それが他の群れと戦うだけで交わらない山犬は、牝犬たちから群れを追い出されてしまう。統率する犬が群れの中で曖昧になれば群れの秩序は混乱する」
「スト様、群れの中では牡犬は牝犬に、かなわないということですか?」
「群れで必要な存在を選ぶのは、牡犬ではなく牝犬たちということだよ」

山犬の群れが、群れを存続するために最も危険だと恐怖を感じるのは牡犬の生殖力が失われることであるように、人間の群れでも戦いで男性が多く亡くなり、さらに支配した移民たちは支配者の根拠である血統を維持するために、原住民の群れ女性に交わりを強要しても、産んだ子を移民の群れの中からは排斥して虐げた結果、強い怨念が呪詛になった可能性がある。

また人が群れで生きるようになって、群れを滅ぼす危険なものに恐怖を抱く習性が祟りの元凶だとすれば、人は蛇神を利用して、群れを滅ぼす者を排斥し続けてるのではないか。

蛇神の神官が女性である理由や呪術師ロンダール伯爵が「僕の可愛い妹たち」を必要としている理由とつながる蛇神と呪詛の秘密に、ストラウク伯爵の考察は到達しようとしていた。

「人が他人を恐れて呪詛で排斥しようとする限り、蛇神を利用したいろいろな祟りの災いが発生し続ける」
「人がいなくならない限り、祟りの災いは終わらないということですか?」

フリーデが怯えた声でストラウク伯爵に言った。ザイフェルトやフリーデの身に降りかかる災いを避ける方法を知るために、ストラウク伯爵に会いに来たのに、無駄だったのかと不安になった。

「フリーデ、強い思念は怨念ばかりではない。山犬の群れで牝犬たちが、群れを率いる牡犬を排斥するように群れの習性で祟りを起こしているのなら、私たちもその力を利用して儀式を行ってみることができる。ヘレーネが結婚式をわざわざ誓いの丘を選んで行ったことや、フリーデの母親がベルツ伯爵領の村で儀式を行ったように、祟りという呪詛に対して祝福を祈願する儀式を行うことはできる。何もしなければ祟りがすでに起きている以上、贄として影響をうけた者たちは命を奪われる運命をたどるだろう。それならは、私やマリカと一緒に、ザイフェルトとフリーデも儀式をやってみる気はないかね?」
「スト様、祟りから逃れる方法があるのですか?」
「ザイフェルト、逃れるという考えは捨てたほうがいいだろう。ヘレーネにも同じ話をしたのだが、その時は伴侶がいなかったのでな。それにテスティーノとアルテリスには退魔の力があるので、群れでいえば牡犬のようなものだ。私たちは牝犬たちなのだよ。マリカ、この伯爵領の地図の巻物をここに持って来てくれぬか?」
「ちょっと、スト様、あたいは女だよ。修行でザイフェルトを投げ飛ばしたりしたけど、さすがに牡犬ってことはないんじゃない?」
「アルテリス、喩え話だよ。兄者も私と同じことを考えたのか?」
「なんだ、テスティーノ?」
「アルテリスは、ヘレーネによれば遠い過去、ターレン王国やゼルキス王国が建国するよりもいにしえの時代の大陸でも平原から来た者らしい。私は前世という話も聞いて信じ難いと思ったが、兄者もこのターレン王国に来た私たちの先祖の移民は、別の時代から渡って来たと考えたのではないか?」
「ふふふ、ヘレーネの母親アリーダは、おそらく遠い過去の時代から、アルテリスと同じようにやって来た者だろう。褐色の肌や黒髪、レチェを作り出した呪術はこのターレン王国に住む者にはめずらしく、その呪術は私には理解できぬ。アルテリスの耳やしっぽは、昔話で牝の狐が村人の伴侶になるために人に化けた姿のようだ。テスティーノ、狐の嫁という昔話を知っておるか?」
「美しい女性と山で迷った男が出会って結婚したら、花嫁は山の神に仕える美しい狐だったという昔話だったような」
「アルテリスがテスティーノのところに来て、ふたりでレナードや精霊を連れて私を訪ねて来た時は、美しい狐の花嫁だと思った」
「ふふっ、スト様、あたしはそんな美しいかい?」
「ああ、テスティーノがべた惚れするほどだからな」
「そうかねぇ、あたいが好きでくっついてるだけで、ねぇスト様、伯爵様はあたいに惚れてくれてるのかな?」
「見ている私が恥ずかしくなるぐらいべた惚れしているよ」

アルテリスが照れて、少しもじもじとしながら、隣に座っているテスティーノ伯爵の顔を微笑みを浮かべて見つめた。

「テスティーノ、私たちの先祖は見知らぬ土地へやって来て、自分の故郷に似た山の見える土地に暮らすことを選んだのかもしれぬ。そう考えるのもおもしろいではないか」

ザイフェルトとフリーデは3人の娘たちに、ストラウク伯爵から聞いた昔話をたくさん聞かせて育てた。幼い3人の娘たちは、リヒター伯爵にその話を聞かせに行くのが大好きだった。リヒター伯爵は3人の幼女たちに、昔話は嘘だとか作り話だとは、絶対に言わなかった。
それが将来、3姉妹が女騎士となるときに魔法を身につけるために必要な想像力を育んだのだった。

マリカが聞いていたら、妬くような褒めっぷりだったが、マリカがストラウク伯爵の書庫から地図の巻物を持って来た時には、アルテリスはしおらしくテスティーノ伯爵の隣で座っていた。

地図の巻物を広げて、ザイフェルトとフリーデに双子の山は乳房、スヤブ湖は牝の花の位置、へそあたりが途中で道をたずねて干し肉をもらった村のあたりは見立てられることを、ストラウク伯爵は説明した。

「昔話には、山の神のつかいの蛇の話もあっての、これは少しばかり、恐ろしい話でな」


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