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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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婚姻儀式祝福魔法とパンケーキ-2

人妻フリーデは、隠された身分を持っていることをリヒター伯爵に明かした。
フリーデの父親ケストナー伯爵は、ブラウエル伯爵の父親である。ケストナー伯爵がベルツ伯爵領の地主の娘イルメラを側室とするために連れ帰り、フリーデは生まれた。
フリーデは、ブラウエル伯爵とは腹違いの妹なのである。
ブラウエル伯爵の母親である正妻、王都から嫁いで来たジャクリーヌ婦人は、側室のイメルラ婦人を貴族とは認めなかった。ベルツ伯爵領の地主は、イメルラの先祖は伯爵に仕えた官僚や騎士の末裔の血筋、小貴族の血筋だとケストナー伯爵はジャクリーヌ婦人に説明した。
ジャクリーヌ婦人は王都の宮廷官僚のバルニエ男爵の娘で、伯爵領に暮らす小貴族のイメルラは、平民階級に没落した貴族で下賤の身だと考えていた。ケストナー伯爵は、若いイメルラを側室に迎える条件として、ブラウエルを子爵とすることを承諾した。
ブラウエル伯爵は現在34歳であり、フリーデとは6歳の年齢差がある。
ケストナー伯爵の寵愛を受け産まれたフリーデが17歳、子爵ブラウエルが23歳の頃に、フリーデの母親イメルラ婦人が亡くなった。その翌年、ケストナーはあとを追うように亡くなり、ブラウエルが伯爵となった。
フリーデが年頃になったので、警戒したジャクリーヌ婦人は、側室の産んだ伯爵令嬢フリーデを、ベルツ伯爵領へ返すことにした。
本妻ジャクリーヌ婦人は、若い側室イメルラ婦人を嫌い、豪華な別邸を建て別居した。10歳から子爵となったブラウエルも別居で育てられた。
ケストナー伯爵は、初めての生まれた娘のフリーデを溺愛した。ブラウエルは後継者として厳しく育て上げようと、冷たい態度で接していた。
イメルラ婦人が亡くなると、フリーデは伯爵令嬢と認めないと本妻ジャクリーヌ婦人は、フリーデをベルツ伯爵領へ追い出すことにした。
ベルツ伯爵は、地主の娘イメルラが男児を産み、後継者争いが起きるのを期待していたので、フリーデが返されてきて目論見がはずれた。イメルラが男児を産み本妻となり、その子が伯爵となればベルツ伯爵領とケストナー伯爵領を合併させることも考えていた。
フリーデがケストナー伯爵の令嬢ということを、ベルツ伯爵の子息メルケルが知り、地主のザイフェルトにベルツ伯爵が与えたことを納得できなかった。
ベルツ伯爵としては、フリーデがメルケルと婚姻を結べば、ジャクリーヌ婦人が健在のうちは、メルケルが伯爵になったとしても、ジャクリーヌ婦人の実家筋の王都の貴族と確執が生じる。
メルケルとフリーデとの間に男児が産まれたら、フリーデは正妻となり、その子がのちに子爵となる。
ベルツ伯爵は、伯爵領から宮廷官僚として子爵を進出させる計画をバルテット伯爵と立て進めていた。
フリーデをメルケルに与えることは、この計画を進める上で、人脈の維持に禍根を残すことになると判断した。
ケストナー伯爵婦人ジャクリーヌの面目を潰すことになると考え、ベルツ伯爵はフリーデを譲り受けたのである。
初めから騎士の末裔のザイフェルトに嫁がせるつもりで、フリーデを他領から招いたわけではなかった。
翌年、ケストナー伯爵が死去して、ブラウエルが伯爵となり、ジャクリーヌ婦人は、ブラウエル伯爵領の実権を握る存在となった。ブラウエル伯爵領の老嬢ジャクリーヌ婦人は現在も健在で、息子のブラウエルのために王都からの資金援助を続けさせている。
黒薔薇と呼ばれたシャンリーが3度名門貴族の未亡人となり、遺産を得て後宮へ入内したのを、老嬢ジャクリーヌは知っている人物である。
成り上がりの牝狐と国王の妻妾となった未亡人シャンリーを軽蔑していた。
フリーデをブラウエル伯爵領から引き取ることで、ベルツ伯爵はジャクリーヌ婦人の血縁の宮廷官僚たちとの人脈とつながりを持った。
そのためベルツ伯爵は、フリーデを子爵シュレーゲルと婚姻させるわけにはいかなかった。ジャクリーヌ婦人の血縁にあたる貴族の令嬢か、ブラウエル伯爵の血縁にあたる令嬢を子爵となったシュレーゲルと婚姻させたかった。
ブラウエル伯爵の腹違いの妹フリーデはベルツ伯爵から、その身の上を村人たちにも話さず隠すようにしなければ、ジャクリーヌ婦人によってフリーデは殺されかねないと脅されていた。
ザイフェルトは、ベルツ伯爵からある貴族の側室の令嬢であるが、産んだ母親が平民階級だったとだけ説明されていた。ブラウエル伯爵の腹違いの妹である事実を、ザイフェルトは知らなかった。

「フリーデは、ケストナー伯爵の娘であったか。ヘレーネと身分としては同じ令嬢であるが、ケストナー伯爵も亡くなっており、ベルツ伯爵とジャクリーヌ婦人が、そんな事実は一切ないと言い張ればフリーデの身分は隠蔽され剥奪され続ける。ブラウエル伯爵がジャクリーヌ婦人の考えを無視して事実を認めると公表すれば伯爵令嬢の地位が得られるだろう」
「伯爵様、私は地位を捨てることで、ベルツ伯爵領へ出されて命拾いをしたと思っています。ジャクリーヌ婦人のそばで暮らしていれば、いずれ父上や母上のように殺されていたはずですから」
「殺されていた?」
「毒を盛られたのだと思います。おそらくお菓子かお茶に。母上は吐血して即死でした。父上は意識を失い、翌年亡くなっています。亡くなるまでに意識が戻られたのかはわかりません。父上と母上は邸宅の庭園で語らいながら、お茶とお菓子を召し上がるのがお好きでした」

ジャクリーヌ婦人によるケストナー伯爵の毒殺。フリーデが証言して証拠が見つかっていればブラウエルが伯爵の爵位や領地を継ぐことはできなかった。
フリーデの母親イメルラ婦人だけを毒殺するはずが、ケストナー伯爵まで毒殺してしまったのかもしれないと、リヒター伯爵と一緒に話を聞いている子爵リーフェンシュタールは思った。

「それに、私が伯爵令嬢であればザイフェルトと夫婦ではいられなくなってしまいます」
「フリーデ、それは違う。法律でそのように定められているわけではない」


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