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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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婚姻儀式祝福魔法とパンケーキ-3

リヒター伯爵はバルテット伯爵が婚姻した時の話をフリーデに聞かせた。

バーデルの都のモーリアック伯爵は、一人娘レナエルしか子を授からなかった。そこで、バルデットという男爵であった青年を婿として伯爵の地位を譲った。

「伯爵令嬢レナエルとバルテット男爵では、伯爵令嬢のほうが男爵よりも地位が高い。しかし、婚姻してバルテット男爵は、伯爵の爵位をモーリアック伯爵から受け継いている。伯爵令嬢が自分の地位より下位の男性と婚姻すれば、その相手の男性は、子爵と同じ階級となる。つまりザイフェルトはフリーデが伯爵令嬢てあれば、リーフェンシュタールやカルヴィーノと同じ子爵の地位の者ということになる」
「フリーデと婚姻した者は、伯爵領の子爵として、ブラウエル伯爵の後継者となる資格がある。そのため、ジャクリーヌ婦人はブラウエル伯爵領にフリーデが婚姻することで、ブラウエル伯爵から地位や領地を奪う者があらわれる前に、ベルツ伯爵領へ隠した」
「リーフェンシュタール、伯爵令嬢など存在しなかったことにするには、フリーデの母親イメルラを側室としてケストナー伯爵の元へ出したベルツ伯爵にも、黙ってもらう必要があった。そして、ベルツ伯爵はジャクリーヌ婦人には、フリーデはすでに始末したことにでもしておるのだろう。子爵メルケルやシュレーゲルと婚姻させれば、ブラウエル伯爵の地位と領地をベルツ伯爵が奪うつもりだと思われて、ジャクリーヌ婦人の血縁の宮廷官僚どもとは手が組めなくなる」
「父上、ではザイフェルトは、ジャクリーヌ婦人にとっては、息子の仇敵となるわけですね」
「そういうことになるな。このふたりはブラウエル伯爵が亡くなれば、伯爵と伯爵婦人となる資格がある。ジャクリーヌ婦人やベルツ伯爵が隠蔽しても、ブラウエル伯爵はイメルラ婦人やフリーデのことは覚えているはずだ」
「父上が、ジャクリーヌ婦人の立場ならいかがなさいますか?」
「モンテサンドがここにいたら、私に同じ質問をするだろうな。私ならベルツ伯爵領へなど行かせずに、ブラウエル伯爵と婚姻させただろう。本妻でなく側室として」
「伯爵様、ジャクリーヌ婦人はイメルラ婦人のことを、夫のケストナー伯爵を横取りした下賤な小娘と思って憎んでいたとすれば、フリーデのことを憎んているでしょう。憎い女の娘を自分の息子の妻にして、姑として一生つきあっていく気にはなれなかったのでしょう」
「ヘレーネ、女とはそういうものか……」
「フリーデ、貴女が母親と一緒に毒殺されなかったのは、なぜ?」
「ブラウエル様が邸宅へ訪ねてきて、私たちは父上の書斎にいたのです」

皇子ランベールがローマン王を毒殺し、メイドのアーニャを陥れたように、ジャクリーヌ婦人はフリーデに母親殺しの罪をかぶせ、フリーデとケストナー伯爵との淫らな関係を、拷問で自供させて処刑するために王都へ送り、ケストナー伯爵は隠居させる。息子のブラウエルを伯爵にして、ケストナー伯爵とジャクリーヌ婦人は、余生を二人で過ごす。
シャンリーはジャクリーヌ婦人の手口を皇子ランベールに真似させることで、秘密を知っていると遠回しに牽制した。
ジャクリーヌ婦人が毒殺に使った毒薬は宮廷官僚の貴族へ、シャンリーが売ったものである。その貴族から誰に毒薬を横流しをしたのか聞き出してから殺害している。だから、シャンリーはジャクリーヌ婦人がケストナー伯爵を毒殺したのを知っている。ケストナー伯爵の側室にイメルラ婦人がいたことや、二人の間には確執があったことも知っている。
告発しなかったのは、自分が毒薬を宮廷官僚に売った事実まで発覚するのを警戒したからである。

「フリーデ、貴女の父上のお屋敷にはメイドがたくさんいた?」
「60人ほどいたと思います」
「貴女のお母様に毒を盛ったメイドがいたとして、そのメイドたちはどうなったのかしら?」
「母上が亡くなり、メイドたちは全員、解雇されました。父上はジャクリーヌ婦人の邸宅へ運ばれたので」
「ケストナー伯爵の邸宅で働いていたメイドの証言が集められたら、フリーデの母上が実際にいたことを証明できるかもしれないな」

カルヴィーノが、フリーデに言った。ブラウエル伯爵領には、フリーデ救出の時にカルヴィーノの知り合いが増えた。

「うーん、カル君、それはむずかしいかもしれないよ。メイドさんたちが解雇されたのは、すいぶん前の話でしょう?」

シナエルが言うには、もし貴族の邸宅からメイドがジャクリーヌ婦人によって解雇されたとしたら、別の邸宅のメイドで雇ってもらえず、数年は酒場で働いているかもしれない。しかし、長く同じ酒場で働いているわけでなく、他の伯爵領へ移り住んでいる可能性が高い。

「姉上、僕らで父上から聞き出してみることはできるんじゃないかな?」
「シュレーゲル、私たちが聞き出して認めても、父上はそれを、ジャクリーヌ婦人との関係を維持するために公表したりはしないでしょう」

ベルツ伯爵やジャクリーヌ婦人を挑発するにはどうすればいいかをヘレーネが提案した。

「結婚式を終えたら、リヒター伯爵領から、ストラウク伯爵領へ、ザイフェルトとフリーデは半年ぐらい旅をしてくればいいと思う。ふたりがストラウク伯爵領にいるなんて、父上も予想できないんじゃないかしら」

結婚式を終えたザイフェルトとフリーデは、ストラウク伯爵領へ行く。
ベルツ伯爵領かブラウエル伯爵領から、訪れる怪しい者を捕まえるほうが証拠になる。

「ふむ、私に危害を加えに来た疑いがあることにすれば、刺客を捕らえても問題なかろう」

リヒター伯爵が、ヘレーネと笑顔でうなずきあっている。

「姉上、危険ですよ」
「父上、もしもの事があったら……」

子爵シュレーゲルと子爵リーフェンシュタールが言うと、ヘレーネとリヒター伯爵はこう答えた。

「ベルツ伯爵領から来た刺客なら、貴方に危害は加えない。ザイフェルトのふりをして自分の身は守るのよ」


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