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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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婚姻儀式祝福魔法とパンケーキ-1

リヒター伯爵領のトレスタの街から一番近い村の中間にあたるあたりに、小高い丘と一本の大樹がある。
トレスタの街から来た馬車から3人の花嫁が姿をあらわすと、見物に来ていた村人から歓声が上がった。
馬車の馬車の馭者は、リヒター伯爵とエマが馭者席にいるのに気づいた小貴族たちは、一斉に背筋をのばし、馬車の馭者席の二人に一礼をする。
それに合わせてリヒター伯爵は、軽くひらひらと手を振り小貴族と村人たちの視線に笑顔で答えた。
3人の花嫁は、ヘレーネ、シナエル、フリーデの3人の美女たちである。
天気は快晴。暑さも過ぎて過ごしやすくなり、もう作物は収穫を残すのみで、今年は豊作であるのがわかっている。
丘の反対側の村の方向から、もう一台の馬車が到着する。
こちらの馬車の馭者席には、トレスタの街から一番近いペオル村の村長の息子と小貴族の令嬢が着飾って乗っていた。
一瞬、何事かわからず、ざわつく観衆に子爵シュレーゲルと普段は宿屋のちょっと無愛想な主人のクルトが、しっかり甲冑を身につけ兜は外した凛々しい姿の正装で4人目の新郎新婦の到着と、ペオル村の村長の息子と小貴族の令嬢であることを教え「盛大な拍手!」とガシャガシャと拍手を始めた。
観衆はつられて全員拍手をすると、馬車を止めた村長の息子が、リヒター伯爵と同じように手をひらひらと緊張した顔でふり、その隣の新婦が心配そうに新郎を見つめていたので、観衆から笑い声が上がった。
馬車からリーフェンシュタール、カルヴィーノ、ザイフェルトが姿をあらわす。観衆の女性たちからため息が一斉に上がった。
それぞれ見た目の雰囲気はちがうが、そのためにそれぞれの女性の好みに強烈にぐっとはまるものがあった。
まず、村長の息子と小貴族の令嬢の新郎新婦とリヒター伯爵とエマが丘の上の樹の下に立ち、リヒター伯爵から婚姻を認める宣言が行われ、新郎新婦が抱き合ってキスをすると、離れて見ている観衆からも結婚が認められたとわかり、歓声と拍手が起きた。
次は3人の新郎と3人の花嫁が丘の上の樹の下へゆっくりと登って行った。丘の上でそれぞれの伴侶の手を取り合うと、リヒター伯爵とエマの前に並んだ。
3組の新郎新婦がやはり抱き合ってキスを交わすと、4組の新郎新婦が観衆に軽く頭を下げて、手を振ると拍手と歓声が響き渡った。
それが終わると観衆たちがそれぞれの村から丘を囲んだ状態で宴が始まり、月が昇る夜まで続いた。
村人たちの結婚式のやり方と貴族の結婚式を合わせたやり方で、村人たちは貴族の結婚式は見たことがなかったが、誓いのキスをするのは同じだとクルトに教えられて納得していた。この丘は「誓いの丘」とリヒター伯爵領では呼ばれることになった。
村長の息子と小貴族の令嬢の新郎新婦はペオル村の観衆たちのもとへ、丘を下り迎え入れられて祝福の言葉をかけられていた。
リヒター伯爵やエマも馬車に乗せ、子爵シュレーゲルと元衛兵のクルトが馭者として、リヒター伯爵の邸宅へ、観衆に見送られて戻ってきた。
レチェはなぜ大勢の人間が集まって、緊張したり、ため息をついたり、興奮して歓声を上げ拍手しているのか、よくわからないのか、エマに抱えられて結婚式に参加していた。
レチェが、リヒター伯爵の婚姻を認めると宣言するたびに、にゃっと鳴くので、丘の上の全員が笑いをこらえていた。

この盛大な結婚式を村人たちと小貴族を招いて野外へ招いて行ったのは、ランベール王のバルテット伯爵を結婚式に捕縛した一件に対する、リヒター伯爵の当てつけでもあった。
また、ストラウク伯爵が村人と変わらない暮らしをしているとリヒター伯爵がヘレーネから聞いて、羨ましいと言ったことも関係している。
一度の結婚式で、リヒター伯爵領の住人たちの心の底にある、歴史の戦乱の悲劇と身分制度で刻まれた恐怖の種が取り払われたわけではないが、この結婚式が噂になり広がれば、他の伯爵領でも良い影響が期待できる。
カルヴィーノの結婚式に呼ばれなかったと、テスティーノ伯爵が寝台の上でアルテリスのしっぽを撫でてへこんでいたので、アルテリスがテスティーノ伯爵の頭を撫でながら慰めていた。

(性悪女の結婚式は、いつも派手なんだけど、今度の旦那はちゃんとつかまえていられるのかな?)

派手な結婚式を上げておきながらしばらくすると、アルテリスと旅に同行していたが、生まれ変わって少しは改心したのか気になったのだった。

(伯爵様の息子のカルヴィーノが、性悪女の旦那にならなくて良かったよ)

「アルテリス、私たちも結婚式を盛大にしようか?」
「あたいは、伯爵様とふたりっきりで、満月の下でキスしてくれたら満足だよ」
「満月?」
「獣人たちは満月の夜に、生まれ変わっても、また伴侶になれるようにお祈りしてキスをするのさ。月は欠けても、また満月になるからね」

テスティーノ伯爵からストラウク伯爵がこの結婚式の情報を聞き、ヘレーネが住人たちの気持ちを変えようとしていると察した。

「ふむ、リヒター伯爵とは、今ならよき友になれそうだ」
「他のところでは結婚式に、いろんな村から人が集まらないんですか?」
「マリカ、貴族の結婚はちがう。親族だけを集めて、その場に来ている一番身分が高い者に婚姻を認めると宣言される儀式を、結婚式としているのだよ」
「スト様と私の結婚式をするとしたら、父上に宣言してもらうのですか、それとも、自分で宣言なさるのですか?」

マリカに、アルテリスから聞いた満月の下のキスの話を、テスティーノ伯爵が聞かせた。

「とっても素敵です! 宴で酔っぱらって知らない人が裸で踊って悪ふざけしている結婚式よりは、私もお月様の下で、ふたりっきりでする結婚式がいいなぁ」
「裸で踊ってひやかす奴がいたら、あたいなら湖に投げ飛ばすね!」

マリカとアルテリスの会話を聞いて、ストラウク伯爵とテスティーノ伯爵が顔を見合せていた。花嫁が大暴れする婚礼の宴を思い浮かべて。


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