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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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リーフェンシュタールの結婚(後編)-7

「……シュレーゲル」

落ち込みすぎて、あれこれどうでもいい気分になっているが、もともとシュレーゲルは、気が優しい。
強引なシナエルをテーブルから追い払うこともせず、子爵シュレーゲルが話しかけられているのを、店長のクルトは厨房からチラチラと見ていた。

「おーい、できたぞ!」
「はい、はい、店長、今、行きま〜す」

シナエルがぺろっと舌を出してシュレーゲルに微笑むと、席を立ち、厨房に料理を受け取りに行った。
宿屋の店主クルトは、シュレーゲルがベルツ伯爵領の御曹司であることも、リーフェンシュタールから知らされていた。

ヘレーネはレチェを連れて、街の見廻りを行っていた。
リヒター伯爵以外にも、祟られている者がいないか気になっていたからである。ベルツ伯爵領は母親のアリーダが祟りを鎮め、それをヘレーネとレチェが見廻りして維持していた。
村には貴族はいないが、トレスタの街は小貴族たちが商売をしたり、それぞれ仕事をしている。
他の伯爵領から移住してきた小貴族も多く、パルタの都では小貴族たちが伯爵領へ出向しているが、トレスタの街の小貴族たちは領内で仕事をしている。
宿屋の1階が、昼間は食堂で夜からは酒場を兼ねているので、街の噂が集まる場所だった。
怪しい噂がある場所は、本当に危険かどうかは別にしても必ずあるものである。街の見廻りといってもレチェの餌場探しに、ヘレーネがついていくような感じであった。
シナエルは、働くことで気をまぎらわせていた。店長に頼まれた食材の買い出しと、宿屋のまわりの掃き掃除ぐらいしか出歩かない。
元衛兵の店長クルトはシナエルが不審な行動をしたら、ヘレーネに報告することになっている。
ヘレーネは一緒に宿屋の手伝いをしてみないかと、シナエルから誘われた。

「いらっしゃいませ〜、お一人様ですねっ、こちらへどうぞ!」
「はい、ご注文ですね。はい、確認させていただきます……では、お待ち下さい」
「ありがとうございましたぁ、また来て下さいねっ!」

(私には無理……愛想笑いも疲れる)

夕方や夜の繁盛している店内で働くシナエルの様子を見て、ヘレーネは思う。

「え〜っ、ヘレーネは美人だし、レチェもかわいいから、すっごくお店は人気が出て、店長が売り上げがすごいって感動して泣くと思うんだけどなぁ」

シナエルはそう言っていたが、たしかにヘレーネか働くと彼女の接客した店は大繁盛する。
では、彼女がいなくなった店がどうなるかといえば、店の売り上げが急激に下がって、閉店まで追い込まれるのである。
前世の彼女は娼館で働いてみたことがあった。その娼館を中心にその国で一番の売り上げを誇る色街にまで発展したが、彼女が王宮へ招かれて去ると、たちまち寂れてしまった。
生まれ変わったヘレーネは、また魅了された者たちによる喜劇と悲劇を繰り返すつもりはない。

ストラウク伯爵は、山の聖地である自領とパルタの都を避難場所にするように言っていた。
このリヒター伯爵領も、地脈の浄化の力で護られている優良な土地に思える。しかし、何か理由がある。
たとえばストラウク伯爵領のスヤブ湖、ベルツ伯爵領ならば祟りの大樹のようないわくつきの場所がリヒター伯爵領のこの街にあるのではないか。
ヘレーネはそう考え、レチェと街の郊外を歩いている。

リヒター伯爵領の村でヘレーネは噂の聞き込みを、ザイフェルトも連れては行っていた。
すると、トレスタの街が、リヒター伯爵領の「忌み地」だとわかった。

トレスタの街は、どの耕作地である村と隣接していない。村人たちから話によると、小貴族たちが収穫の時期になると村へ訪れ、王国への納税分の作物をパルタの都へ送る手配を手伝う。耕作地をトレスタの街に隣接させて作れば、小貴族たちが赴く手間や時間が削減できるはずなのに、トレスタの街から、どの耕作地も離れて作られている。
ここにヘレーネは違和感を感じた。トレスタの街から、村が離れた土地にあるのか。その理由を知る村人はいなかった。

(ストラウク伯爵領みたいに昔話が残っていたり、古い風習がベルツ伯爵領の村人たちみたいに残っていれば、手がかりがつかみやすいのに)

「忌み地」とは、そこで暮らしたり、耕作をするのを避けられている土地のことである。
土地の水はけが悪く根腐れしやすい土地や、天候の関係で作物の育成に必要な雨水が得られない土地など、耕作に不向きな理由があると「忌み地」となっていることもある。
しかし、村人たちが理由がよくわかっていないとなると、「忌み地」がある理由は、耕作に関係する事ではない。
その土地を所有したり、耕作した本人やその親類縁者にまで良くない事が起きたという噂があったが、忌むべき理由を伝える者が絶えて、村人たちから忘れられたことも考えられる。
リヒター伯爵に悪影響が続いていれば、リヒター伯爵が亡くなった事実が噂と結びつけられることで、祟りがあらわれる可能性はあった。
子供の頃のザイフェルトが樹から落ちて負傷したことが、討伐された先祖たちの弔うために墓所に苗木が植えられていたことに、村人たちの心の中にある祟りに対する恐怖と結びつけられたことで、本当の祟りが起こりかけていたように。
リヒター伯爵にも、ヘレーネは確認してみたが、村とトレスタの街が離れている理由はリヒター伯爵も知らなかった。
「忌み地」とされた理由の昔話や噂と、良くない事が起きた事実が、その土地で暮らす人たちの心の中で結びつけられることで、本当の祟りが発生する。
「忌み地」となっているということは、祟りが起きる要因がひとつ用意されているともいえる。
昔話や噂があれば、禁忌の原因とされているものを鎮めるための儀式を行うことができる。心の中で祟りを恐れる人たちを納得させることで、本当の祟りを防ぐことができる。

(こうなったら、こわい言い伝えをでっち上げて、鎮めの儀式をしてやろうかしら!)


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