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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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リーフェンシュタールの結婚(後編)-6

フリーデの夫ザイフェルト。兄のメルケルを殺した男は、自分が想像していた雰囲気とはちがっていた。シュレーゲルが思い浮かべていたのは、激昂しやすく口調も荒々しい、兄のメルケルに負けないぐらい野蛮な雰囲気の男を想像していたのだった。
ザイフェルトは、淡々とした口調で、口数も少なく冷静に言葉を選んで話すような印象をシュレーゲルは受けた。兄のメルケルは気性が荒く、他人の話を聞くのも億劫だと、自分の思いや感情を勢いに乗せて一気に話す性格だった。その気性の荒い兄を怯えさせるほどの激昂を見せて、村人たちの前で殴り殺したという人物には見えなかった。
シュレーゲルは、父親のベルツ伯爵がフリーデにザイフェルトの減刑を条件に取引を持ちかけたことや、伯爵領を出奔してフリーデと駆け落ちすることも考えていることもザイフェルトに話した。
フリーデに事情を説明させるのは、卑怯な気がした。ザイフェルトと同じ、一人の対等な大人の男なのだとフリーデに思われたかった。

「そうか。事情はわかった」

ザイフェルトは表情を崩すことも、声を荒げることもなく、シュレーゲルをじっと見つめて、それだけ言った。
シュレーゲルは、自分の緊張して興奮していた気分が、一気に氷にふれたように冷めていくのを感じた。
フリーデは部屋の扉の前で、メイドのエマにつき添われて立って、話し合いをしている様子を、いや、夫のザイフェルトだけをじっと青ざめた疲れきっている顔で見つめていた。
カルヴィーノから、バーデルの都の混乱の中をフリーデを救出するまで、盗賊に囚われていたことなどや、幌馬車に乗せて連れて来る間に、フリーデが自ら命を絶ってしまいそうに思えるほど悩み、憔悴していたことをシュレーゲルは聞かされていた。
ザイフェルトが、モルガン男爵の暗殺に失敗して処刑されて、夫を失った悲しみを癒せるのは自分だけだと考えながら、シュレーゲルが待っていた間にも、フリーデは盗賊にも辱しめられても生きなければならなかったのを知って、悲しくなった。盗賊に殺されるほうがましだと思うこともあったにちがいないと、シュレーゲルはカルヴィーノから話を聞きながら、フリーデの気持ちを想像していた。
ザイフェルトもフリーデがベルツ伯爵領から追放されて、リヒター伯爵の邸宅に来るまでの事情をカルヴィーノから聞いているはずで、それでも、ザイフェルトはフリーデのことを罵倒したり、軽蔑するような表情を浮かべたりはしない。
リーフェンシュタールは、シュレーゲルに一言だけ質問をした。

「シュレーゲル、君は何を望む?」

話し合いの前に別室でリヒター伯爵の前で質問されたシュレーゲルの答えは、フリーデの願いを叶えたいということだけだった。

「伯爵様、僕がフリーデだったら、これほどの屈辱を与えた男たちのことを怨みながら、自ら命を絶ってしまうと思います。でも、フリーデは、生きてここまで来ました。僕に再会するために来てくれたとしたらうれしいですが、僕の望みはフリーデの願いが叶えられたら、もう、僕はそれだけでいいと思いました」
「フリーデの望みが、シュレーゲルやザイフェルトに一度だけ再会してから、死んでしまいたいというものだったら、シュレーゲルはその願いを叶えるのか?」

リヒター伯爵に言われて、シュレーゲルは首を横に振って、ため息をついた。

「死なせたりはしません。僕はフリーデに生きてもらいたい」

リヒター伯爵がその答えを聞いて、リーフェンシュタールにうなずいた。

「リーフェンシュタール、エマをつき添わせてフリーデも話し合いに立ち会わせよ。リーフェンシュタールはシュレーゲルの隣に、カルヴィーノはザイフェルトの隣にそれぞれついていてやるがよい。聞いた限りでは二人は、フリーデの心を知りたい、願いを叶えてやりたい、フリーデに生きてもらいたいと、同じ思いを抱いているようだ。フリーデが何を望んで生きているのか、話し合いに立ち会わせれば、フリーデに惚れた二人には、何かわかるかもしれぬ。二人がフリーデを殺して自分も死ぬという愚か者でなくて安心した。エマ、もしもフリーデが取り乱すことがあれば、気持ちが落ち着くまで、絶対に離れてはならぬ」

リヒター伯爵はそう言ってから、シュレーゲルの肩にポンッと軽く手を乗せて、もう何も話しかけずメイドのエマと退室した。

(フリーデにふられた。フリーデが、ザイフェルトに受け入れてもらえたらいいけど。ザイフェルトが死んで心が弱っていたら、フリーデは死んでた。僕は弱っているフリーデの心につけこんで惚れてもらおうとした、ただの卑怯者だった。ふられたのよりも、自分の卑怯さを認めるのがつらい)

もうリヒター伯爵領にいる意味はない。でも、帰る気になれない。今、父親のベルツ伯爵と顔を合わせたら殴りつけてしまうとシュレーゲルは思う。
宿屋の1階は食堂になっている。テーブルについて、兎肉の料理を注文した。自分に腹が立って仕方がない。やけ食いしてやろうと何人かで分け合って食べる量のある料理を注文した。

「え、大丈夫? 食べ残すともったいないですよぉ」

シュレーゲルが泣きながら帰ってきたので、充血した目で話しかけてきた給仕の娘の顔を見上げた。
シナエルは、宿屋の主人クルトに暇つぶしに手伝うかわりに食事代はタダ、酒は半額という条件で交渉して働いていた。

「あ〜、ここの兎肉おいしいのに。店長さん、あのお客さんと、食事休憩してもいいですかぁ?」
「ダメといってもさぼるんだろう。今は他の客が来ない時間だ、好きにしろ。こっちも給料を払ってるわけじゃないからな。ちょっと、あの坊っちゃんも様子がおかしいから、まあ、よろしく頼む」

クルトは30代の元衛兵である。親から継いだ宿屋と食堂を経営している。

「あのね、店長のおごりだって。じゃんじゃん頼んでいいよ。兎肉、私にも分けてね。あ、私、シナエル。お店のお手伝いをしてるんだ。ねぇ、君、名前は?」


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