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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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世界樹の乙女-1

賢者の石から生成変化した、目の前に現れた艶やかな緑色の髪と鮮やかな翡翠色の瞳の乙女に、マキシミリアンは、近づいて抱きしめたい衝動を感じながら手をのばしかけて、どうにか立ち止まった。
頭がぼんやりしてしまうような、安らぎと魅了されている感情が、美しい乙女に近づくたびに強くなっていった。
生成変化する直前に、頑丈なダンジョンの壁さえも削るほどの突風を巻き起こしたのを、反射的にどうにか無詠唱の魔法障壁で身を守ったマキシミリアンの緊張感を、強引に霧消させ、さらに何も考えられなくさせられそうにされかけた。
自分の心に影響が与えられたと、マキシミリアンは、ぎりぎりで手をふれる前に気づくことができた。

「おしえてくれ、君は、リーナちゃん……なのか?」

マキシミリアンが呼びかけると、ゆっくりと美しい乙女は、マキシミリアンの視線をまっすぐ見つめ返してきた。

ダンジョンで生成された魔獣と遭遇した時、ハンターが足がすくんでしまい動けなくなることがある。心が危険すぎる相手だと悲鳴を上げて体がこわばる。
生成され出現する魔獣の強さとは、頑丈さや凶暴さというよりも、心が魔獣の魔力に影響されて威圧されることにある。それこそが、ただの獣ではなく、魔獣と呼ばれる理由である。心に影響を与えるということこそが、脅威なのだ。

目の前の美しい乙女は、微笑を浮かべたまま目を潤ませると、ぽろぽろと頬へ涙が零れ伝い始めた。

「……はい、リーナです」

それだけ震える声で言うと、手で顔を隠して肩を震わせて泣き続けた。マキシミリアンは、大きくひとつため息をついてからリーナを抱きしめて背中を撫でてやりながら、落ち着くのを待っていた。

マキシミリアンはこのあと、かなりがんばることになった。リーナの新しい肉体が生成されて、強烈な影響をダンジョン内に波及させた結果、ダンジョンで暮らしている魔物娘たちが発情してしまったからだった。

(ああっ、僕はこのまま搾り尽くされて死ぬかもしれない)

恐怖や凶暴な殺意を誘発するのも困る。しかし、安らぎや愛情があふれてしまっている魔物娘たちの発情状態を、マキシミリアンは魔力を注ぎ込み、体力と精力を削り取られながら、交わりまくって解いていくしかない状況に陥った。

「リーナちゃん、回復を頼む」

帰ってくるなり、ぱたっとベッドの上にうつ伏せに倒れ込んだマキシミリアンの背中に、リーナはしなやかな両手をのせて、目を閉じて回復を念じる。
すると、背中のあたりから全身に、水面に波紋が広がるように、体力が回復していく心地良さが広がった。

リーナには、マキシミリアンが用意したセレスティーヌの衣服を着てもらい、居住スペースに待機してもらっている。回復魔法は、神聖教団の僧侶が必須で習得させられる法術である。マキシミリアンは、リーナを落ち着かせようと抱きしめた時に、賢者の石からリーナがどんな新たな肉体を得たのかを理解した。

世界樹の精霊族。
エルフ族の暮らす大樹海の中央にある、天に届きそうな大きさに成長した大樹が世界樹。洞の中でエルフ族の嬰児を生成し続ける不思議な大樹である。
エルフの王国で賢者の石が錬成されたからなのか、世界樹の化身にリーナの意識が宿っている状態で生成された。
世界樹の魔力を感じ取るために、マキシミリアンは世界樹の幹に手をふれてみたことがあった。緑色の髪の美しい乙女になったリーナをマキシミリアンは抱きしめていて、世界樹にふれた時と同じ感覚があった。涼しい風に吹かれながら木陰でゆったりとくつろいでいるような感覚である。

(とんでもないものを生成してしまったのかもしれないな、これは)

ダンジョンの下層階にマキシミリアンとエルフ族のセレスティーヌが暮らしているのだが、この最下層には普通のハンターは訪れることができない。
ダンジョンを制御する特別な部屋があるためである。マキシミリアンはダンジョンの謎を調査を独自で解明し、制御に干渉することに成功した。
ダンジョン踏破できるハンターもいないのだが、さらにその先の、隠された最下層の階にマキシミリアン夫妻は暮らしている。

マキシミリアンはダンジョンの大改造を施して、生成された魔獣のうち半人半獣の魔物娘たちをハンターから保護するための隠し場所を作り出した。
魔物娘たちから、討伐しないで、仲良くなれば、いろいろな物を分けてもらえることに気づいたからである。
例えば、アラクネ族の魔物娘の場合は、人型の上半身に蜘蛛型の下半身を持つ虫系の魔物は身体能力と知能も高く、腹の先から出す糸を用いて蜘蛛の巣や罠を作り出す。糸の罠に捕らえた獲物から、魔力を奪取する。かかったのが人間の男性の場合、交わって精液を絞り出す。逃げようともがく者ほど見込みありと見なされやすい。自分の伴侶と認めた相手を、好色なアラクネが巣にしている部屋から逃すことはまずない。手先が器用で、糸を用いて服を縫い上げる。アラクネには気に入った相手がいると服などを贈る習慣がある。素直に受け取ると自分のものになったと認識され巣に連れ帰られる。

ハンターが出会えば、まず威圧される。そして怯えたハンターが必死に戦いアラクネを討伐すれば、アラクネの死骸が消滅したあと、残された魔石を拾うことになるだけである。

魔物娘たちをマキシミリアンは、ハンターに襲われないように保護して観察しているのだが、徘徊していて通路や部屋で他の種族の魔物娘と遭遇したとしても、友好的であり、殺し合うことがない。

糸やアラクネ族の織る毛布などはとても手ざわりが良く、寝汗なども吸い取ってくれるし、旅先で肩からかけてくるまっていれば、夜の寒さが気にならなくなる逸品である。魔石よりも、マキシミリアンは、愛情のこもった毛布のほうがありがたいと思っている。
ダンジョンでは魔物娘たちと共存すれば自給自足が可能なのだった。

(アラクネ、散歩してないで、巣にいるといいけど)


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