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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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パルタ事変-2

ソフィアが部屋に来た時には、長身の美丈夫のザイベルトが、すでに3人ほど兵士たちを殴り飛ばしていた。

「モンテサント先生!」
「ひさしぶりだね、ソフィア。これは何事なのかな?」

ザイベルトが、胸ぐらをつかんでいる兵士から手を放した。ソフィアは、兵士たちに他に人がいないか念入りに探すようにと指示を出した。

ソフィアは遠征軍の後発隊は国境の駐屯地に残ったこと。後発隊の兵糧は目減りされて支給された上に、解散させる命令が、モルガン男爵から出されたこと。
先発隊を辺境地帯で待機させ、呼び戻す計画だったが、先発隊は失踪してしまったので、志願兵の兵力は戦う前に半分になってしまったこと。

「それでガルド将軍は、王都ではなく、志願兵の食糧が確保できるパルタの都を占拠することにしたのか。ソフィア、とにかく、今は執政官のベルマー男爵と王都から来ている宮廷官僚を都から逃がさぬように確実に捕らえることだ。そうしなければ、伯爵たちに君たちを討伐せよと王命が下る。ザイベルトを連れて行きなさい、役に立つはずた」
「モンテサント先生は、どうなされるおつもりですか?」
「見張りに5人もいれば、この執政官の官邸を占拠するには充分だ。ソフィア、残りは連れて行きなさい。私は君が戻るまで、ここで待たせてもらうよ」
「先生、感謝します」

ガルドとソフィアは、パルタの都の北と南の大門を閉ざし、それぞれ100人の兵士で封鎖している。
執政官の官邸にベルマー男爵がいると考えて、ソフィアは100人の部隊で官邸を制圧しようとしたのだが、あてが外れた。しかし、モンテサントが執政官の官邸を訪れていたおかげで、捕らえなければならない王都への密告者が、もう一人いる情報をつかんだ。
モンテサント、ザイベルト、ソフィアの3人は、パルタの都に来訪している宮廷官僚が、モルガン男爵だとはわかっていなかった。

「先生、もしベルマー男爵が身を隠すとしたら、どこでしょうか?」

ザイベルトが、モンテサントに部屋を出る時、振り返り聞いてみた。

「私が身を隠すとすれば、食糧倉庫の地区だな。朝の配布する食糧の荷出しの時間以外には、人がいないので人目につかず見つかりにくい」

モンテサントがザイベルトにそう教えたのには理由があった。モンテサントが執政官で、ガルド将軍の遠征軍をパルタの都から追い出そうと考えたら、食糧倉庫の地区を焼き払うと考えたからだった。食糧がなければ、遠征軍は伯爵領へ向かうか、手持ちの兵糧が尽きるまでの短期決戦で、王都を陥落させる大勝負に出るしかなくなる。
もちろん、食糧を焼き払ったのはガルド将軍だと、事実は隠蔽して報告する。

(こんな時こそ、執政官はガルド将軍と交渉して、食糧を分けるのを条件に、都の住人の安全を保証させるべきなのだ。さて、どこで何をしていることやら)

ターレン王国の歴史上では、建国したのちの伯爵領が成立する以前の平定期以来のクーデターとなる「パルタ事件」はこうして幕を開けた。
元遠征軍指揮官の騎士ガルド将軍を筆頭に、志願兵約1000人の部隊がパルタの都を真昼に襲撃、軍事拠点として占拠した。
当時、王都の宮廷議会はローマン王崩御の後、ランベール王即位をめぐって地方の領主である伯爵派の官僚は排斥されてしまった。また、ランベール王によりターレン王国の国土拡張案に基づく志願兵の募集により、ターレン王国の経済に深く関わっていた獣人族の行商人が国内から退去したことで、農産物のゼルキス王国への輸出取引が中止された。
その結果、地方の経済活動が停止して、食糧はあれど流通する金銭が不足し、食糧の取引価格は下落した。国王の直轄領と地方の伯爵領との間には、経済格差が生じ始めていた。
そんな中、遠征軍は地方の村人やそれをまとめている地主、つまり平民階級の若者が多く集まり、新しい耕作地獲得の夢を持ち、ゼルキス王国との戦に挑もうとしていた。だが、宮廷議会の貴族たちからは流民とさえ呼ばれ蔑すまれており、ゼルキス王国との外交を有利に進めるために威嚇する捨て石のような存在としてしか認識されなかった。
そのため遠征の兵糧を行軍開始後に予定よりも減らされるなどの宮廷議会の対応に、遠征軍の内部では、遠征そのものに矛盾を感じる者が増えていった。
国王ランベールが先代ローマン王の「本来は辺境も自国の領土である」という主張を継いで、かつてターレン王国が内乱の平定と耕作地開発による内政の時代を維持するため、ゼルキス王国と同盟を締結したが、耕作地獲得のために外交政策を進めても、ゼルキス王国はターレン王国とのニアキス丘陵の割譲には応じず、耕作地獲得は難航している。それを武力によって打破しようとする考えに対し、宮廷議会から追放された伯爵たちは、現状の問題は、名門貴族たちによる宮廷議会の政治に問題があったと考え、実権を伯爵たちに奪還することで、国内を安定した状況まで回復させるため、内政重視の穏健派であるリヒター伯爵を宮廷議会の宰相として就任させ、国王ランベールの強行案を宮廷議会によって抑制する考えがあった。
宮廷議会は、国王の王命には絶対服従する王権至上主義の考えで、実権を握っていた。
宮廷議会はもともと国王が臣下からも広く意見を集め、協議するための場として設立され、国王による独裁政治と民衆から判断され、内乱や混乱を引き起こさないための仕組みであった。しかし、現状の宮廷議会には、その国王を守るための役割は放棄されている。
国王ランベール、宮廷議会、伯爵たち、平民階級の地主や村人たち、それぞれ違う考えを持っていた。

そして「パルタ事変」は平民階級の村人たちの若者たちが、遠征軍の解体を独断で進めていたターレン王国の宮廷議会に対し決起した事件として、歴史書には記録された。

実際のところ、騎士ガルドは国王を弑殺した後、自ら国王として君臨するために行動しているだけであり、ターレン王国の情勢や歴史に関しては無知であった。


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