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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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賢者の石の錬成-3

洞窟の壁面は、淡い青いほのかな小さな光の粒が発光していて、薄暗いながらも真っ暗闇ではない。

(なんか、きれいです。星の光に囲まれてるみたいですね)

リーナが、ロエルの視界の情報を感じて話しかけてきた。
しばらく一本道の洞窟を進むと、巨大な石扉で行き止まりになっていた。

「扉ノムコウ、ルーシーガイルトコロ。外へ行ク穴ガナイ」

オークが振り返り、残念そうに言った。
すると、ロエルが言った。

「ここは、さっきのきれいな湖のある異界とはちがう、また別の異界。ああ、わかった。子供の私はここに迷い込んで、オークさんやルーシーさんのところに行った」

エルフ族が世界樹を中心とした結界の領域を持つように、ドワーフ族にも、不思議な山の言い伝えが残っていることを、オークに話した。

「岩肌が煌めいているのは、光に反射しているわけじゃない。ここは、ドワーフ族の本の中みたいなところ。文字の代わりがこの小さな光、命の欠片」

ドワーフ族は山から生まれ、山に還ると伝えられている。洞窟にドワーフやロエルがいることで、肉体の生きて存在している力の流れに反応して、洞窟が発光しているらしい。

「私、この扉、開けられる」

ロエルが軽く手のひらをふれただけで、石扉が強く発光する。まぶしい光に包まれる。すると湖のほとり、洞窟へ入って来た場所にオークと錫杖を抱えたロエルは立っていた。

「スゴイ、力持チナ女ノ子ダナ」
「ちがう。腕力じゃない。同調した」

オークたちは思いっきり全力で石扉を押していた。その時、体に力を込め、息を止め、鼓動が早まる。頭の中は石扉を開くことや、手のふれている石の感触だけに集中している。そして一瞬だけ異界の門と同調する。
ドワーフ族の細工師は手にふれながら、目の前の物が世界に存在するために持つ力の流れと、自分が世界に存在するための力の流れを同調させる。
同調した状態で、開けと念じれば簡単に開くことができる。腕力はいらない。
行き先は、オークの存在の力と強く結びついている異界へとロエルは望んだ。

エルフ族の領域の主は、エルフ族と世界樹。蛇神の領域の主は、蛇神と淫獄。つまり、美しい湖と森の異界は、オークを主とする異界だとロエルにはわかった。
洞窟はドワーフ族の領域。エルフ族、オーク族、ドワーフ族、人間族、見た目はちがっていても、命や自然に対する気持ちや感性には似たところがあり、つながりがあるのだろうとロエルには思えた。

「あの洞窟から、エルフ族のところに帰ることができる。でも、もう私には、ユニコーンのいる聖域には行けない」

ルーシーはロエルとリーナが帰る方法が見つかったのを喜んでくれた。
ロエルには傷痕だらけの優しいオークが死んでしまう前に、別のオークが美しい湖と森の異界に来て暮らさなければ、この異界が失われてしまうだろうということを、ルーシーに言えなかった。この異界が消える時、ルーシーも一緒に消滅してしまう。

(元の暮らしていた世界に帰りたいと思いますか?)

僧侶リーナが、ロエルの気持ちを察してルーシーに聞いてみた。

「私はオークと、ここで愛し合って暮らしていたい。帰りたかった頃もたしかにあったわ。でもね、帰っても、今より幸せにすごせる気がしないの」

ロエルには、ルーシーの気持ちがちょっとわかる気がした。人間族の青年セストとの暮らしを捨てドワーフ族の男性と、種族を存続するために交わって、子供を産んで生きていく気にはなれない。
それで、ドワーフ族が滅びるのなら、滅びてしまえばいいとロエルは思った。

ロエルは、オークとルーシーに人間族の青年セストが弟子になりたいとやって来て、今は恋人として一緒に暮らしているという話を聞いてもらうことにした。

「私は、人間族を憎んでいた」

平原に移り住んだドワーフ族は小さな村を作って暮らしていた。その居住地へ人間族の奴隷狩りが襲ってきた。
逃げている時に、美しい湖と森の異界へ迷い込み、オークやルーシー、幼い男の子のガルドと過ごした。その後、洞窟から、聖域に行ってユニコーンと出会い、ツノを撫でた。気がつくと平原から離れた獣人族とドワーフ族の職人がいるルヒャンの都にいた。
そこでドワーフ族の職人に弟子入りし、師匠が親代わりでロエルを育てた。師匠が亡くなり、ロエルは細工師となった。

「師匠が亡くなる少し前に、腕前を認めてくれるハサミをやっと作れた。セストが、そのハサミを持って私の店に訪ねて来た。人間族の国から離れて、私を探すために旅をして、とても苦労したみたいだった。セストは、私の弟子になりたいと言った。こんなハサミを作れるようになりたいって」

「そのセストという人間族の人が、好きになってしまったのね」

本当は、ドワーフ族の男性と子供を作って、ドワーフ族が滅びないようにしないといけない。それがわかっていても、好きという気持ちの方を選んでしまった。

「私は、それでいいと思ってる」

ロエルはそう言ったあと、うつむいて黙ってしまった。ルーシーは、ロエルを抱きしめた。
母親の記憶はもう曖昧だけれど、ロエルは母親に抱きしめられているような気持ちになった。自分の選択した生き方を、優しく許されたような気がした。

ロエルは洞窟の中に一人で籠り、錫杖の錬成に挑戦することにした。
洞窟の小さな煌めきは、ドワーフ族が古代エルフ族が魔獣と戦っていた時代からの技の叡知で、ロエルを導いてくれると信じた。
自分を奴隷にしようとした人間族の危機を救うため、そして、愛しているセストのためにロエルは、魔石と錫杖に自分の命を同調させる。
この世界は、大量の見えないほどの小さな物質によって構成され、さらに小さな物質が幾多にも重なり合い、結びつき、存在する。それは、ロエルという存在、魔石という存在、錫杖という存在、どれも世界を構成する真理においては同じであった。


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