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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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魔獣変化-1

細工師ロエルは、幼い頃に一度だけ、聖域に迷い込んだ体験をしていた。
その時にロエルは、守護聖獣のユニコーンのツノにふれた。

「その時から、私は細工師になった」

「神聖教団の大神官たちが、ロエルの話を聞いたら、嫉妬するかもしれないな」

「ロエルが、どうして細工師になったのか初めて聞いたわ。てっきり、ドワーフ族だから細工師になったと思ってた」

「聖域は、この錫杖の加工には最適」

ユニコーンは、一角獣とも呼ばれ、額の中央に一本のツノが生えた馬に似た姿であると、古代エルフ族の伝承では伝えられている。神聖教団にもユニコーンの姿については伝えられていて、背には白き翼を持つとされている。
ダンジョンには、伝承で伝えられている生物が多く生成されているが、ユニコーンは生成されていない。
どちらの伝承でも、ユニコーンは極めて獰猛。ただし、純潔なる処女の懐に抱かれて、おとなしくなる習性がある。またツノには、蛇などの毒で汚された水を清める力があるという。

蛇神の呪物である錫杖を、僧侶リーナの意識が失われないように、賢者の石という魔石に加工するには、ユニコーンの守護する聖域の浄化された風は最適だと、細工師ロエルは考えていた。

賢者マキシミリアンは、ダンジョンで錫杖を拾わなければ、錫杖はやがて、魔獣と変化した姿で生成されていたと推測していた。
僧侶リーナの意識が宿っているため、魔獣変化の生成が、錫杖に起こらず保たれている。

蛇神の錫杖から、僧侶リーナの意識が失われて魔獣変化が起きると、エルフ族の伝承では、淫乱なる悪霊とも呼ばれるラミアが生成されると、賢者マキシミリアンは予測している。
蛇神ラーガが、上半身は美しい男性、下半身は白蛇という半人半蛇の姿であるように、ラミアは上半身は美しい女性、下半身は白蛇の姿である。
ラミアが、淫乱なる悪霊という異名を持つのは、胸の下から臍の下あたりまで、真っ直ぐ一直線に裂けるように開くと、体内は蛇神の異界へとつながっており、生きた異界の門となる。そこからは、蛇神のしもべが這い出てくると伝えられているからである。

細工師ロエルが、加工に失敗すると融合した魔石の効果もあり、錫杖が魔獣変化してしまい、ラミアが生成される可能性が高い。
ロエルの工房がある獣人族とドワーフ族の職人の都ルヒャンに、蛇神のしもべが人々に憑依して蛮行が行われると、人々の思念の力の影響で、加工に失敗する可能性がある。
そのため、賢者マキシミリアンとエルフ族のセレスティーヌは、ルヒャンの都に結界を作るつもりでいた。

ダンジョンで錫杖を加工してもらうことも、マキシミリアンは考えた。しかし、ダンジョンも特殊な領域であることや、さらにニアキス丘陵の周辺の森林地帯での傭兵ガルドの蛮行による亡霊の思念の力や、リーナは満月の夜に異界の門の中へ連れ去られたことを考慮すれば、ダンジョンよりも、遠く離れたルヒャンの都のほうが無難であると、セレスティーヌは考えた。

一度、異界の門が開いた村では、聖騎士ミレイユが、ゴーレム馬の神馬で応急処置を施している。
また、ゼルキス王国の王都ハーメルン、さらに国境には、神聖教団の神官マルティナによって結界の法術と祓いの法術が施されている。
蛇神のしもべが、工房のあるルヒャンの都で異変を引き起こすには、大陸を横断するように這いずってやって来るか、獣人の行商人にひそかに憑依して、ルヒャンの都まで運んでもらうしかない。
聖騎士ミレイユや神官マルティナによって、蛇神のしもべは塞き止められている状況なのだった。

蛇神のしもべに憑依されていなくても、人が恋をして、愛し合っている場所では蛇神と関係する肉欲の思念はある。それは、ルヒャンの都やエルフ族の隠された王国でもかわらない。

禁欲が戒律に従って行われている神聖教団の神殿で、蛇神の錫杖を加工すれば、細工師以外の肉欲に関係する思念の影響はわずかだろう。
しかし、蛇神の錫杖を、蛇神のしもべが狙って集まってきたり、ラミアに魔獣変化する呪物として持ち込まれるのを警戒されるか、蛇神の異界へ、蛇神の錫杖をリーナの意識が宿ったまま捨てようとすると、マキシミリアンは判断した。

「マキシミリアン、セレスティーヌ、リーナ、弟子のセストと少しだけ、二人だけで話したい」

細工師ロエルは、セストの手首をつかんで、2階の寝室へ行ってしまった。
ロエルのことを心配している恋人のセストに、聖域行きを説得するつもりなのだろうと、セレスティーヌにはわかった。

「リーナちゃん、心配ないわ。恋人がてきたり、伴侶ができたら、話し合うことはとても大切なことよ。おぼえておいたほうがいいわ」

セレスティーヌは錫杖にそっとふれて、優しい口調で話しかけた。

「ねぇ、マキシミリアン、ロエルが今、どんな気持ちで、獰猛なユニコーンがいる聖域行きを私たちに言い出したのか、わかる?」

セレスティーヌには、親友ロエルにも恋人ができたから、錫杖の加工の依頼を引き受けてくれたのだと思っていた。

細工師ロエルを、ドワーフ族の細工師としての腕前はすばらしく、また職人の誇りを持っている女性だと、セレスティーヌは尊敬している。

しかし、世界が蛇神や蛇神のしもべによって混乱するのを阻止するために協力してほしいと頼んだとしても、以前のロエルなら断られていたと思う。

他人がどんな生き方をするかには無関心で、一生で自分の納得できる物を作る技を、どこまで極められるかということにしか興味がない。
ロエルはそんな女性だった。

それが、恋人のセストが蛇神のしもべに憑依されて操られているとしても、他の女性と交わるのを許せないと思うようになった。
ロエルが、恋人のセストの目の前で、他の男性に犯されるのを見られるのを、許せなくなった。

他の人たちの恋人や伴侶と生きて行く世界も守りたいと、ロエルは思うようになった。


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