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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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師匠ロエル-5


ロエルとセストが顔を見合せてから、ふたりで首を傾げた。

「蛇神って何?」

細工師ロエルの質問に、エルフ族のセレスティーヌが答えた。

「この世界の生物の肉欲に深く関わっている異界のぬし。このぬしがいなかったら、人間族は子孫ができなくなる。だから、古代エルフ族が滅ぼせなかった魔物のうちのひとつ」

古代エルフ族が、世界中で生物を餌にしていた魔物を退治しまくっていた遠い過去の伝承を、ロエルは親友のセレスティーヌから聞いたことがあった。

「リーナちゃんが、神聖教団の僧侶として、極端に体だけじゃなく気持ちまで禁欲して生活していた。肉欲が存在を維持するのに必要な蛇神にとって、リーナちゃんみたいな女の子の心は、大好物だったってことだ」

賢者マキシミリアンがそう言うと、ロエルはまた質問した。

「リーナを狙って、何が来る?」

「ロエル、目に見えない蛇神のしもべどもが来るよ」

蛇神のしもべが来て憑依される。
憑依されると操られて、淫らなことがしたくてたまらなくなる。

憑依された者たちが、たくさん集まる場所ができると、そこに蛇神のいる世界へとつながっている異界の門が開く。

世界がつながったら、具現化といって、こちら側の生物と変わらないものに蛇神のしもべはなる。
ダンジョンで、古代エルフ族が退治した魔物もどきが出現するみたいに。

そして、開いた門から、錫杖に呪縛されているリーナを奪って、しもべどもは、あちら側に帰る。

「むこうから来たばかりのしもべは、祓うのは難しくない。ここで憑依されたら見つけにくいかも。獣人族の行商人に憑依していたら、憑依されたことに気がつかないまま、旅に出る人もいる」

門が開いてつながった場所は、こちら側よりも、あちら側に近くなる。
しもべでも具現化するぐらいになると、かなり強い力で祓わないと滅びない。

マキシミリアン夫妻の説明を、ロエルは考えながら聞いていた。

「憑依されて操られたら、どうなる?」

「蛇神のしもべに操られると、好きでもない相手と快感を求めて交わったり、強引に襲ったりする」

憑依された人を祓って、操られた人が自分の心を取り戻したそのあとで、自分が何をしたか思い出して、深く傷ついて悲しむ人がいる。
あと、憑依されていたときの快感が忘れられなくなって、蛮行を繰り返す人もあらわれる。

「すると、異界の門が開いてしまうことがある。生きている者たちの思念が、この世界に影響を与えるから」

細工師見習いのセストは、鉱石を柔らかくして金属の素を取り出せる。
だから、セストは知っていた。
マキシミリアン夫妻の言うように、たしかに、生きている者の強い念や感情は、世界を変える。

「リーナちゃんを、蛇神のしもべには渡さない。あと、錫杖のままだと、ずっとリーナちゃんは、これからも蛇神のしもべどもに追跡されてしまう」

「だから、リーナの錫杖を、賢者の石に加工するように、マキシミリアンは依頼した」

細工師見習いのセストが知らない物の名前を、師匠ロエルが言った。

賢者の石。
魔石の中でも、もっとも貴重で強力な魔石だと、エルフ族には知られている。

「マキシミリアン、賢者の石は、ここで作らなければいけないのか?」
「ロエル、もっと良い場所の心あたりがあるのか?」
「ある……蛇神のしもべに憑依する人がいない天空の島」
「ロエル、天空の島に行けるのか?」
「行ける。でも、リーナと私だけ」

大陸のここから遠く離れた西方、ニアキス丘陵周辺で、蛇神のしもべを召還している異界の門がすでに開いた。
ニアキス丘陵の周辺の森林地帯には、古代エルフ族の伝承に伝えられている異変がすでに起こっていた。

しかし、蛇神のしもべどもは、この獣人族とドワーフ族の都ルヒャンに現れていない。

蛇神のしもべどもの移動手段は2つ。
大陸を這いずって横断していく。
移動する生物に憑依して運んでもらう。
この2つである。

ゼルキス王国では、神官マルティナが、王都ハーメルンで、憑依された者を浄化し、這いずって侵入して来る蛇神のしもべどもを滅していた。
蛇神のしもべどもは、王都ハーメルンで塞き止められている状況であった。

「いや、ロエル。ここで賢者の石に加工しよう」

マキシミリアンが、ロエルをじっと見つめてから、ため息をついて言った。
細工師ロエルがリーナが呪縛されている錫杖を持って、天空の島へ行くことはできるかもしれない。
だが、細工師ロエルは、戻って来ることができるとは言っていない。

「行く。ここで失敗したら、取り返しがつかない。あそこなら、できる」

リーナ、セレスティーヌ、セストは、賢者マキシミリアンと細工師ロエルが、どこに行く、行かせないと、急に押し問答を始めた意味がわからなかった。

「マキシミリアンさん、天空の島って、俺、聞いたことないんですけど、何ですか?」

セストは、普段は物静かで、感情的にあまりなることがない師匠ロエルの様子がおかしいの気づいて、賢者マキシミリアンに質問した。

セストには、わからないことだらけである。蛇神、蛇神のしもべ、憑依、具現化、賢者の石、そして、天空の島。

「蛇神、肉欲の支配者ナーガが異界を持っているように、いろいろな異界が存在している。天空の島は、愛と豊穣の女神ラーナの異界にある特別な場所だ」

マキシミリアンが、なぜ細工師ロエルを天空の島に行かせたくないのか、エルフ族のセレスティーヌがセストよりも先に気づいた。

細工師ロエルは、純潔の処女ではない。
神聖教団では、僧侶や神官の女性たちに厳しく戒律で、異性との体の交わりを禁じている。
それは、信仰する愛と豊穣の女神ラーナの領域へ行き、こちら側に戻ってくるためには、純潔の処女でなければならないと信じられているからである。


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