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【学園物 恋愛小説】

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想[13]-1

水を一口飲んで、いつものように店内を見渡す。
ランチタイム時の『U-LOVER』は人でごった返すのだが、今日はそれほどでもない。奥の方で料理を作る音が微かに聞こえる。
カウンターの端に置かれている花、今日はチューリップか。もう春なんだ…。
来週がとうとう大学の入学式。この間まで、ダウンジャケットにブーツ、マフラーだったのに、今日の私は薄い黄緑のジャケットに白いタイトパンツ、完璧な春色スタイルだ。
本当に今日は晴れて良かった。
暫らくぼーっとしながら座っていると
「来るの早いね、相変わらず」
背後から声がした。
「名屋君より遅くは来たくないの」
「何で?」
私に向かい合って名屋君が席に着く。
「遅いっていじめられそうだから」
私がそう言うと名屋君は
「分かってるじゃん」
と笑った。
「名屋君は意地悪だもんねー。行動パターンは大体読めるよ」
「ふーん。ていうかね、その『名屋君』ていうの止めてってば」
名屋君は私に会うと絶対にこう言う。
「何かよそよそしい」
そして、絶対にシュンとしょげてしまう。私はこの時の名屋君が子犬みたいで可愛いから、わざと『名屋君』と呼んでいるところがある。 それに、何か恥ずかしくてどうも私は、呼び捨てにすることが出来なかった。
名屋君が名前の呼び方を気にしているのは分かっているけど、やっぱり…ね。『鋼吾』って呼びたいし、言おうとはしているが、何だか不自然になってしまいそうでいやだった。
「その内、その内。ねぇねぇ、それよりさ何食べよっか?」
私はメニューを開いて、名屋君の前に差し出した。
「私は、このパスタ食べてみたいんだ」
だけど、名屋君はムスッとして口を尖らせたまま反応しない。
「名屋君?名屋君は何食べる?」
「俺はまだ大人にはなれねぇよ」
「え?」
「主里は、いっつも誤魔化すだろ?それって俺のせいか?」
名屋君はぼそぼそと一人ごとのように呟いた。
「俺だってそれなりに考えてんだよ。主里が元彼と別れたのは俺のせいか、とか、それで俺のことまだ受け入れられないのかな、とか…」
語尾の方はかなり小さく、聞き取るのがやっとなくらいだった。
名屋君は、私が思ってた以上に気にしてたんだ。そんなに、悩んでたんだ。いつも名屋君は平然としてたから、全然気にも止めなかった。
「…違うよ。関係ない。あ、暁寿のことはちゃんと整理付けてる。その、君付けなのは…恥ずかしかっただけなの。気にさせちゃって、ごめんね」
私は名屋君の大きな瞳を見つめた。
「…まじで」
「まじで。鋼吾」
何か…自分で思ってたよりも、自然に言えたかも。
だからだろう。
「そっか。……あ」
鋼吾はホッとしたように微笑んだ後、大きな目をさらに大きく見開いた。
「意外に簡単に呼べるもんだね」
「ありがと…」
赤くなった鋼吾の顔を馬鹿にしたように笑ってやった。
「笑うなっ!」
「いつもの仕返しだよ」
「なんだよ、もういいよ…」
「ごめんごめん、本当は私も嬉しいの。ありがとね」
私がそう言うと、鋼吾は「うん」と言って恥ずかしそうに俯いた。
「で、鋼吾は何食べるの?」
「…目玉焼きハンバーグ」
「お子様ランチみたい」
「うっせ!スキなんだから仕方ないじゃん…」


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